柿の木問答「あんたとこに柿の木あるの」


■おおらかだった日本の性
      
見込み通りの大当たり。赤松啓介は面白い。
      
柿の木問答。
      
「あんたとこに柿の木あるの」「ハイ、あります」「よう実がなりますか」「ハイ、ようなります」「わたしが上がって、ちぎってもよろしいか」「ハイ、どうぞちぎってください」「そんならちぎらしてもらいます」
      
これは後家や近所の主婦が、13か15歳くらいの童貞の子供に性の手ほどきをする際の儀式であったらしい。新婚初夜にも使ったそうだ。はじめてする男女が心を通わせるために、こうした儀式的対話を演出道具のひとつとして使っていたという。
      
夜這いは男が女の家に侵入して交わって帰ること。相手はころころ変わってよい。お前、昨日、うちのかあちゃんと寝ただろう、とか、うちの妹のとこにもきてやってくれよ、と友人や隣人と普通に会話している男たちがいる。女もあっけらかんとしていて、童貞のこどもをみつけては、そろそろ教えてあげようかと企んだりする。村中の男女が近親含めて交わっている。こうした乱交状態が広く日本の農村社会に続いていたと赤松は言う。
      
「昔の日本の性はもっとおおらかなものだったらしいよ」とよく聞くわけだが、そのおおらかさを具体的に説明できる人はほとんどいない。柳田国男が始祖となった日本の民俗学には妖怪や神々の性の話はあっても、一般民衆の性生活の話はほとんど出てこない。柳田は民俗学を正当な学問とするために、風俗史において大きなウェイトを占めて然るべき性風俗を闇に葬ってきた。赤松啓介は柳田をペテン師と呼んで厳しく批判している。
      
性風俗の実態を村の人々に教えてもらうには、学者風の調査では不可能である。村の生活に溶け込んで一緒に酒を飲んで腹を割って話せるようにならなければ、村人は本当の話をしてくれない。素朴な性格の赤松啓介にはそれができた。
      
解説の上野千鶴子は、赤松の話のリアルさを認めながらも、記述の信憑性に疑問も持っているようだ。確かにこの本は、広範なフィールドワークというより、赤松個人の体験集であるという面も強い。
      
■相対化
      
例えば娘かつぎの話。
      
「(清水寺の参詣に)娘たちは必ず数人で組んで登ってくるが、二、三人の若い衆が現れていっしょに上がろうと誘うと、これも殆ど同じようにイヤッとか、なんとかいって逃げ惑う。二、三人は坂の上へ上がるし、二、三人は坂下へ逃げ、逃げ送れた一人がとっつかまって上半身を二人、下半身を一人がかかえてテラスへ運ぶ。「カンニンや」とか「やめて」とかあばれるが、マタへ手を入れられ、お乳をにぎられるとおとなしくなる。輪姦が終わると山の山門まで仲よく送ってやり、逃げた友達を探してやったりした。」
      
これ、今であれば立派に強姦罪が適用される輪姦事件だろう。だが、当時は女の子がべそをかいて終わり程度の日常の一コマだったらしい。帰りには男女仲良く帰った雰囲気がうかがえる。無論、根底には貞操は奪われるがそれ以上ひどいことはされないという了解もあったのだろう。もちろん、こうした農村社会も、完全な無秩序、フリーセックスだったわけではなく、むしろ、村単位の掟の上で成立する自由であったようだ。
      
私たちの世代の受けた性教育も今振り返るとずいぶんおかしいものだったと思う。「性を大切に」などと教える。その意味は一定の年齢になるまで性交は待ちなさい。その年齢になってからも、この人はと思える人が現れるまで慎みなさいとする。貞操は守るものであって、楽しむためにはないのである。
      
だが、本当に性を大切に考えるのであれば、存分に使って楽しむ方法こそ教えるべきなのかもしれない。村の後家や主婦たちによる童貞のてほどきレッスンは、現代の風俗嬢も真っ青の充実振りであったようだ。技術も心得も濃密に伝える。少年たちは、異性をどう喜ばすかを早い時期に知る。そして、ひたすら試す。ステディな交際や結婚とは無縁の、無数の性関係を取り結ぶ。100人斬、1000人斬(女性なら抜き)の達成者があると村で祝ったりもする。無論、代償として誰の種か分からぬ子供が生まれたりする。だが、寄り合いでオヤジが息子を膝に乗せて「こいつは俺に似てねえようなあ」と笑いのネタにする程度の問題だったというから、また驚く。
      
今と昔を比較して、どちらが良い、悪いというのではなく、今ある男女関係や価値観も一時的なものに過ぎないものとして、相対化できるのが、こうした民俗学の価値だなあと思う。
      
      
      
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002358.html
      

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