会社の事務の女の子には、秘密の副業があった


 給料に惹かれてブラックな不動産会社で働き始めて、そろそろ3年経つ。初めの頃は、名簿を見ながら電話をかけ続けるだけでも心を削られて、早く辞めたいと思ったりもしたが、慣れてくると適当にアポを取って会社を出てサボる事も覚え、思ったよりもツラくないなと思い始めた。
 契約が決まらないとプレッシャーがキツくて給料も安いが、月内に2件3件と契約を決められれば、歩合がかなりの金額になる。
 3年もやっていると、それなりにノウハウも溜ってきて、けっこう稼げるようになっていた。給料以外ではなにも楽しみがなかった会社だったけど、最近事務で入ってきた恵美ちゃんが、僕の楽しみになっていた。

 恵美ちゃんは、18歳の可愛らしい女の子だ。商業系の高校を出たみたいで、簿記が出来る。でも、今どきは会計ソフトなんかを使っているので、それほど大変でもないらしい。
 歩合給で、なおかつ現金手渡しという古いタイプの会社なので、経理の恵美ちゃんと会話する機会も多い。
「優作さん、今月あと1つ決めたら、100万超えますね! 頑張ってくださいね」
 笑顔で話しかけてくる恵美ちゃん。比較的、年齢層が高めの会社なので、年の近い僕には親近感を覚えてくれているみたいだ。と言っても、18歳と25歳の僕なので、7つも離れている。
 僕は、ありがとうと言いながら、彼女の事を見ていた。事務服は、彼女の趣味なのか社長の趣味なのかわからないが、スカートがちょっと短い。もちろん、ミニスカートというわけではないが、座っているのを上から見下ろすと、太ももがけっこう見えてドキッとしてしまう。
 彼女は、いつも生足だ。まだ10代なのでみずみずしい感じがする。小柄な身体なので、胸はそれほど主張していない。でも、本当に可愛らしい顔をしているなと思う。
 けして美人というわけではないと思うが、愛嬌があって可愛らしい。僕は、けっこう彼女の事を好きになってきているのを実感している。

「100万行ったら、何かごちそうしてくださいよ」
 恵美ちゃんは、珍しくそんな事を言ってきた。それなりに会話も多いし、昼を一緒に食べに行った事もある。でも、こんなことを言われたのは初めてだ。
 僕は、動揺を隠しながら、もちろんと言った。そして、いつもなら来月に回しても良いかな? と思うような案件も真剣に取り組み、なんとか月内に契約をする事が出来た。歩合は100万を超えて、今月は130万以上の給料になった。
 正直、頑張ったなと思う。来月、契約が出来るか心配にはなったが、それでも達成感はあった。

「すご〜い。おめでとうございます」
 恵美ちゃんは、本当に良い笑顔で言ってくれた。純粋で、裏表がないんだろうなと思うような良い笑顔だ。僕は、周りに人がいないタイミングだった事もあり、思い切って今日夕ご飯を食べようと誘った。
「本当に!? 良いんですか? 嬉しい!」
 恵美ちゃんは、本当にビックリするくらいの良い笑顔で言った。そして、今日は早めに仕事を切り上げ、いつもは先に帰っていく恵美ちゃんと同じくらいのタイミングで会社を出た。

 恵美ちゃんは事務なので、いつも着替えて私服で帰って行く。ブラックな会社特有のルーズさで、私服に関しては何も言われないらしい。なので、恵美ちゃんはけっこうギャルっぽいと言うか、露出が高めの服を着ている事が多い。
 今日も、ミニスカートにキャミソールという、可愛らしくてセクシーな姿だ。

 会社の外で合流し、
「なにが食べたい?」
 と、質問した。正直、けっこうドキドキしている。お昼を恵美ちゃんと一緒に食べる時は他の社員も一緒だったりするし、彼女も制服姿だ。
 なんか、デートみたいだなと胸が躍った。僕は、大学の時には彼女はいたが、社会人になって3年ほど彼女がいない。仕事が忙しいと言う事もあるが、なかなか出会いの機会がなかった。
「焼き肉が食べたいです!」
 恵美ちゃんは、元気よく即答した。そして、会社の忘年会なんかでたまに連れて行ってもらう焼き肉店に向かった。芸能人が楽屋の弁当で置いてあると嬉しいとよく言っている、焼き肉のチェーン店だ。けっこう高いので、なかなか自分では行く機会がない。でも、こんな時くらいはと思って張り切った。

「嬉しい! お昼抜けば良かった」
 恵美ちゃんは、そんな事を言いながら楽しそうに笑っている。1ヶ月の疲れがなくなりそうな、良い笑顔だ。
 そして、けっこう良い肉を頼んだ。高くてドキドキしていたが、恵美ちゃんの手前、慣れている風を装った。そして、ビールで乾杯して食事が始まった。
「美味しいっ! これ、なんて肉?」
 聞き慣れない希少部位の肉を食べて、そんな事を聞いてくる。僕は、メニューに書いてあるとおりの事くらいしか言えない。でも、恵美ちゃんは美味しそうにパクパク食べている。
 恵美ちゃんも、静岡から出てきて一人暮らしだ。なかなか外食の機会もないのかな? と、感じた。
「優作さん、来月も頑張ってよ!」
 恵美ちゃんは、笑顔で言ってくれる。不思議なもので、それだけの事で頑張ろうと思えてしまった。食事が進み、
「そう言えば、彼女っていないんですか?」
 と、急に聞かれた。僕は、今はいないと答えた。
「そうなんだ。優作さん、仕事も出来るしモテそうだけどな」
 独り言みたいに言う彼女。僕は、ドキドキしながらも、恵美ちゃんは彼氏はいないの? と、聞いた。会社でも、彼氏がいるという話を聞いた記憶がない。噂も聞いた事がなかったはずだ。

「いないよ。ちょっと前に別れちゃった。遠距離になったから」
 恵美ちゃんは、笑顔のままだ。寂しそうではない。僕は、急にドキドキしてしまった。彼氏がいないという言葉を聞いて、意識してしまった。モテそうだけど、言い寄られたりしないの? と聞くと、
「たまには。でも、変なおっさんばっかりだもん。優作さんくらいですよ。ちゃんとした食事に誘ってくれるのは」
 と、答えた。もしかしたら、会社ではセクハラまがいの誘いをされたりしているのかな? と、ちょっと暗い気持ちになった。

「じゃあ、遊びに行ったりはしないの? テーマパークとか食べ歩きとか」
「友達と行ったりしてるよ。優作さんは?」
「う〜ん、全然行ってないな〜。最近は、会社とウチの往復ばっかかな」
「そうなんですか? じゃあ、ディズニー連れて行ってくださいよ」
「え? 僕と?」
「うん。僕と」
 おどけたように笑いながら言う恵美ちゃん。僕は、間違いなくこの時に恋に落ちたと思う。

 そして、本当にデートに行く事になった。食事に行ってから、まだ10日も経っていない。恵美ちゃんが積極的だったと言う事もあって、本当に早かった。
 車で迎えに行くと、恵美ちゃんはすでに待ち合わせ場所のコンビニで待っていた。今日はギャルっぽい格好ではなく、どちらかというと清楚で可愛らしい感じの服装だ。膝が隠れるくらいのスカートに、薄いピンク色のブラウスのようなシャツ。春らしいさわやかな印象だ。
 やっぱり顔が可愛らしいので、こういう姿だと美少女という印象になる。
「優作さんも、早いね。私も、早く来過ぎちゃった」
 笑顔で言う彼女。本当に胸がときめくのを感じる。
「こういうの乗ってるんだね。アウトドアとかするの?」
 今日は、言葉遣いもいつも以上に砕けている。でも、距離が縮んだようで嬉しい。

 僕が乗っている車は、中古で古いヤツだが4駆のSUVだ。シートが防水だったり、アウトドアユーズの工夫がしてある。
 僕は、スノボと釣りをするので、この車を買った。都内で車を維持するのはなかなか大変で、手放そうかと思ったりもしていた。
 でも、こんな風に役に立つ事もあるんだなと感じた。助手席に乗った恵美ちゃんは、少しだけ緊張している雰囲気だ。物怖じしない彼女にしては、珍しいなと思った。

 車を走らせると、すぐにいつもの感じになった。
「最近、新しいの出来たでしょ? 美女と野獣のヤツ。絶対に乗ろうね」
 恵美ちゃんは、テンションが高い。こんなに楽しみにしてくれている事に、こっちまで嬉しくなる。
 すると、いきなりおにぎりを渡された。買ってきたヤツではなく、どう見ても握ったヤツだ。
「おかかで良い? 鮭の方が良い?」
 恵美ちゃんが聞いてくる。正直、人が握ったおにぎりに抵抗は感じる。でも、恵美ちゃんが握ったおにぎりなら、抵抗は感じなかった。むしろ、デートにおにぎりを握ってきた恵美ちゃんに、ノックアウトされた気持ちだ。

「美味しい?」
 心配そうに聞いてくる恵美ちゃん。もう、好きだと今すぐ言いたい気持ちになりながら、美味しいと答えた。
「フフ、良かった。優作さん、味が濃い方が好きかなって……」
 恵美ちゃんは、ホッとしたように言った。その後は、水筒からコーヒーも入れてくれた。もう、ディズニーランドに到着する前に、とても幸せな気持ちになってしまった。

 そして、パークでは楽しい時間を過ごした。僕もあまり詳しくはないので、色々なモノが初めてで珍しかった。海賊船の所のレストランで食事をしながら、本当に楽しく一日を振り返った。
「なんか、優作さんって面白いね。こんなに楽しくなるって思わなかった。今度は、シーの方の行きたいな……ダメ?」
 恵美ちゃんは、可愛らしくおねだりみたいなことを言う。別に、今日のパスポートも割り勘で買っている。僕が出すと言っているのに、恵美ちゃんが聞かなかった。
 食事や飲み物はさすがに僕が出したけど、それでも恵美ちゃんはポップコーンなんかを買ってくれたりした。
 なので、純粋に僕と行きたいと思って連れて行ってくれと言っているのだと思うと、すごく嬉しかった。

 そして、結局閉園まで過ごして家路についた。朝はコンビニで待ち合わせたが、帰りは家の前まで送った。
「じゃあ、来週楽しみにしてますね」
 そう言って、恵美ちゃんは車から降りてマンションに入っていった。最高に楽しい時間が過ごせて幸せを感じた。しかも、また来週デートの約束まで出来た。

 このまま、交際まで発展出来たら良いなと思いながら、帰宅した。そして、また月曜日が来た。会社での恵美ちゃんは、いつも通りだった。別に、意識している感じもなく、僕に対する態度も今まで通りだった。

 僕は、妙に気合いが入っていた。別に、そこまで歩合給を稼ぎたいという気持ちもないが、恵美ちゃんにかっこ付けたいという気持ちだ。自分でも、こんなに熱心に仕事をしている事に驚いてしまう。

 ある日、かなり遅い時間に会社に戻った。直帰するタイミングだったのに、Suicaを忘れたからだ。
「おっ、お疲れ。どうした? 忘れ物か?」
 河野部長が、少し驚いた顔で言う。会社には部長しかいない状況だ。でも、部長がこの時間にいる事にも驚いた。あまり部長と相性が良くないので、居心地の悪さを感じた。でも、忘れ物ですと答え、ついでにちょっと書類を片付けると告げた。

 会社は、真ん中にガラスの間仕切りがある。部長は隣の部屋だ。でも、ガラス張りなので丸見えだ。逆に言えば、僕の事も丸見えだ。別にすぐに帰れば良いのに、なんとなく仕事をしているフリをしてしまう……。
 僕は、彼に背を向けている。でも、こっそりとセットした鏡で覗いていた。様子をうかがって、タイミングを見て帰ろう……そんな気持ちだ。

 すると、部長が何か言っているのが見えた。誰に対して? と、思っていると、部長の足下から恵美ちゃんが姿を現した。

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