ついていない時というのは、後から考えると千載一遇のチャンスでも、黙って見送ってしまうものなんだな。
今でも下宿屋ってあるんだろうか。
昔下宿屋というと、必ず最初におばあちゃんが出てくるのである。
「息子の正男と嫁の優子。その娘の、上から千裕、好子、未来よ」
そんな一家の中で同居することになるのだから、今ではおそらくないのでしょうね。
しかし当時はいたってそれが普通だった。
実際同居人は、母屋と離れを含めると、5人もいたのだ。
今気づくんだが、男6に対して女5、一人浮く計算だな。
実際、浮いていたのは僕だった。
おばあちゃんの名前は、思い出せないが、風呂上りはいつも上半身裸で、乳びんた可能なたれ乳を揺らしながら、ビールなどを飲んで、ご機嫌だった。
台所のテーブルで同居人は食事をするのだが、嫁の優子さんが、何を思ったか、
「乳もんでみたいかい。もませてあげるよ」
と提案したが、だれも手をあげなかった。
もっとも、そばで夫の正男さんがひゅ~っと口笛を吹いて、目を丸くしていたからでもあったのだが。
長女の千裕さんは、高校を卒業して家にいた。
次女の好子さんは高2だった。
三女の未来さんは中3。
みんな純朴でした。
何事もなく3年が過ぎ、3月になった。
高2になった未来さんの洗濯物が軒先に干されていた。
イチゴ柄の下着だった。
一夜干しよろしくその無防備な下着は、春の夜風に揺れていた。
ごめんなさい。
手に取って部屋に持ち帰ってしまいました。
スタンドの明かりの下、しげしげと眺めていると、しみがある。
いけないいけない。
すぐ元の所に戻しました。
数週間後、最後のお別れの時、母屋の2階に上がる階段を掃除する未来さんを下から見上げ、そのかわいいお尻に
「さよなら」
というと、未来さんはちらっと振り返り、無言で会釈をした。
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