おさがりの女


 「お父さん、無理はしないでね。今日も真夏日なのよ」
 外は地獄の釜のふたが開いたような暑さでした。
 「ああ、もう少しだ」
 そういいながらもう1時間もつながったままなのです。
 というか、ここのところ毎回2時間以上の長丁場で辟易しているんです。
 ポリの風呂桶でパコッとお父さんの頭を叩くと
 「商売道具か嫁入り道具か知らないがそんなもんでお客の頭を叩いちゃいけないよ」
 『あら。嫁入り道具は助べえいすって定番なのよ』
 『でも、ケロリン(風呂桶)も記念にいいかも』
 と鈍い反応です。
 
 「麻衣ちゃん、麻衣ちゃんじゃないか」
 「おじさん、どうか家族には言わないで」
 「わかってるよ、その代わりサービスしてくれよ」
 禁断の関係が続いてきたのですが、先日お盆で親族が集まったとき、おじさんに紹介されたのは、遠い親戚のまだとし若い男性でした。
 「休みを取ったんだろう。二人でどこかへ行ってこいよ」
 おじさんは冗談で言ったつもりでも若い子は本気にしてしまったようです。
 「駅まで乗せていきますよ」
 帰りに駅まで送ってもらおうとした車の行き先はラブホでした。

 「あ、今度は逝きそうだ」
 「う、うう~」
 白目をむいてやっと昇天したときはこれまた定番の2時間、ホント疲れます。
 「ところでこないだの若いツバメのお味はどうだった」
 「ツバメの巣はおいしかったわよ」
 「そっか。そりゃよかった」
 「昔はおさがりっていうのがあったんだ」
 「おさがり」
 「あにきのぱんつをおれがはく、みたいな」
 「わたしはおさがりなの」
 「そーなんだよ」

 

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