愛ヲ欲ス

欲しい…

欲しくてたまらない…

身体が熱く疼く…

「ゆやさん、ちょっといいですか?」
「いいわよ。何?京四郎…」
振り向き様に縛られた髪が揺れ、その下に隠された白い肌が垣間見える。
手を伸ばしそれに触れようとして気付く。
小さな紅い痕…
すぐに察しは付いた。
既に、ゆやが他人の手の内にあることは分かっていた。
「狂と…いたんだね…」
それでも、欲しかった。
「え?」
何の躊躇もなくその紅い痕に触れると、ゆやは真っ赤な顔をしてそこから退いた。
苦笑いをしながらも、どこか幸せそうな表情のゆや。
心の奥底から湧き出てくる重苦しい感情。
その幸せを壊してやりたいと思うのは、非情というものだろうか?
ゆやを奪ったら、アイツは…狂はどんな顔をして、どんな想いをするだろう…
殺されるかな。
それでもゆやを欲しいと思うのは、単に自己満足に過ぎない。
そして、ゆやを悲しませると分かっていても、この欲望は消えない…

今は、ただ…

欲しい。

ガシッ――
突如腕を捕らえられ、驚くゆや。
不安に満ちて揺れ動くその碧眼を、澄んだ青い色とは裏腹の欲望に満ちた鋭い眼つきで見つめた。
「きょ…しろ…う?」
続いて、己の名を呼んで動く唇を見つめると、その唇は乾いているようだった。
艶やかに潤いを与えるべく、咄嗟に自分の唇を押し付けた。
「んぅっ、んんっ……!!」
離れていこうとするゆやの身体を強く抱きしめると、ゆやはさらに抵抗しようともがいた。
その反動で、ゆやを壁へと追いやる状態となり、京四郎はそこでやっと唇を離した。
そして口角をそっと歪める。
「これで、もう逃げられないね。」
ゆやの耳元でそう囁くと、ゆやはビクリと身体を震わせた。
そしてそのまま耳を舐め、軽く噛んだ。
「や…」
ビクビクと肩を震わし、目を閉じるゆやを見て、京四郎は優しく微笑んだ。
「あ…、感じてくれてるんだね、嬉しい…」
さらに、帯を緩め、肩からゆっくりと肌蹴させていった。
二つの膨らみが、京四郎の眼に焼きつく。
自分の腕で隠そうとするゆやに、京四郎は片方の手でその細い両手首を掴み、上へ挙げさせた。
そうすることで、露わになった膨らみをそれぞれ口ともう一方の手を使って愛撫し始めた。
「ちが…、やっ…あ…」
ゆやは、顔を赤くし、涙で頬を濡らしていた。
愛撫することで、膨らみの頂が固くなり立ち上がっていく。
「無駄だよ、ゆやさん。口で否定しても、身体は否定してないみたいだから…」
胸への愛撫はそのまま口で続け、手は一気に下腹部を撫で、薄い茂みへと到達した。
性急に掻き分け、その指はゆやの秘部に触れることで止まった。
そこは、既に濡れ始めていた。
必死に首を振っていたゆやも、その手がそこに触れたことで小刻みに身体を奮わせるだけになる。
京四郎は口角を上に吊り上げ、熱で乾く自分の唇を舌で一度舐め濡らす。
指は、そこの割れ目を上下に沿って何度も擦り動き、ゆやを思いのままに感じさせた。
「あ…あぁ…ん…」
その指に、ねっとりと愛液を絡ませ、京四郎はゆやの眼前で、指を動かしてそれが滴り落ちる様子を見せるようにした。
「ほら…、見て下さい。これ、ゆやさんのですよ?」
「や…」
ゆやは目を固く閉じ、首を振ってさらに否定しようとした。
しかし、それは紛れもなく自分のもの…
理解したくなかったが、それは事実。
ここまで感じてしまう自分が恐ろしく嫌いになりそうだった。
「お願いっ、も…やめて…」
ゆやは、指で弄られたまま立っていられずに、その場にずり下がってしまった。
その時、京四郎に捕らわれていた腕も外れ、一緒に下へ落ちた。
もはや力の入らない腕…、それでもゆやは自分の下で蠢くものを止めるべくそこまで動かした。
京四郎の片手首を、ゆやは両手で触れると、その指の動きは止まった。
「触らないで…」
涙で濡れた顔を京四郎に向け、必死に訴えるゆや。
ますますそそられるだけだというのに…、と京四郎は再び口角を歪めた。
「気持ち良いんでしょう?」
「…気持ち悪い…」
これだけなってまだ否定しようとするゆやに苛立ちを感じ、京四郎は触れるだけだった指をその中心へ一気に突き立てた。
「いっ…!!」
それと同時に、胸への愛撫も再開した。
首筋以外にも、狂が触れたであろう所々も目につき、気分を害してしまう。
それを消すように、同じ所に唇を付け、重ねて痕を残した。
「……ど、どうして…こんなこと…」
「どうして?そんなの好きだから…ゆやさんが好きだから、欲しいって思っただけですよ。」
正直、滑稽だとも思っていた。
狂以外の漢の手で感じるゆやの身体が卑しくて、淫らで…
見ていて飽きない、むしろ欲しい…、そう思った。
「私の気持ち…は、どうなるのよっ…」
「ゆやさんの気持ち…?」
京四郎の動きが一瞬止まった。
ゆやも、痛みと快感に耐えながら口を噤み、京四郎を睨むように見た。
「そう、私の気持ち!これじゃあ、ただの強姦にしか過ぎない!そして、私は京四郎、あなたを絶対に好きにならないっ!!」
自分の中で何かの壁が崩れ落ちる音がした。
好きだから欲することはいけないのだろうか?
だけど、求め彷徨う身体は…、熱は…、衝動は…、抑えられない。
欲を満たしたい。
京四郎は、ギリっと歯を食い縛り、口角を斜め上に吊り上げた。
「…でも、こんなになっちゃってるゆやさんを男として放っておけないなぁ…。このまま僕に堕ちて、溺れてしまいなよ。」
そう言うと、折れる膝を掴みさらに大きく開かせると、自分の身体をその間に割り込ませた。
着物の裾を割って、内ももを撫で上げると、足袋を履いた足がびくんと反応した。
熱いため息が漏れ出るのを聞きながら内ももを撫で上げ、秘奥へたどり着く。
グチュリ。
その音はおおきく淫靡に響いた。
「……っ!」
ゆやが、いやいやをするように激しく頭を振る。
京四郎は思わず喉の奥から笑みが漏れた。
「……身体は正直だね」
構わず膣内に入れた指をぐしゃぐしゃとかき回すと、堪えきれなくなったゆやが声を上げた。
「……気持ちいいですか」
「……」
「言わなくたってわかる。腰が揺れてる」
「…やあ…っ…」
指が陰核に触れると、ゆや泣きながらも甘い声を出した。
中に入れられたままだった指は、いつのまにか増やされ、ゆやのそこは意志と関係なく愛液が溢れ出ていた。
しばらくして、京四郎はゆやの足が小刻みに痙攣し始め、声が擦れてきたことに気付き、愛撫を止めた。
「…感度鈍ってきましたね。ちょっとやり過ぎたかな?」
「…ぅ…気持ちわる…んんっ!」
強情にも否定しようとするゆやの口を京四郎は同じもので塞いだ。
「…っ!!」
しかし、その唇に痛みを感じ、すぐに離し舌で舐めると、そこから血が滲み出していた。
「はぁ…はぁ…」
ゆやは、京四郎の唇が触れた途端、歯を立ててそれを噛んだのである。
「さすがゆやさん…、強情だね。だけど、そろそろ指だけじゃ物足りなくなってきてませんか?」
すると京四郎はズルリと指を引き抜き、自分の着物を帯を緩め始めた。
薄れる視界の中、ゆやはその様子を見て、身体をビクリと強張らせた。
「い、嫌…、それだけは…」
ゆやの抵抗を他所に、京四郎は空いた手でゆやの太股を固定し、曝け出した自身を先程までの情事で潤うゆやのそこへと近づけた。
「や…やだ…やめ…」
「もう…無理だよ、ゆやさん。」
そう、抑えることなど出来ない…、京四郎の表情が一瞬切なそうに哀しいものとなる。
一番大切な気持ちを無視した行為をして、ゆやが幸せになるわけがない。
京四郎にも分かっていた。
しかし、欲情する自分に嘘をつくことは出来なかった。
その懺悔を、この瞬間にしたのだろう…
ほとんど力の残っていないゆやが泣き叫ぶが、ゆやの声はこの一言以降、京四郎の耳に入ることはなかった。

ゆっくりとゆやの中へ入ると。熱く強く締めつけられ自然と細いため息が出た。
「…き…狂の…、これ以上…狂の感覚を消さないでっ…お願い…」
「……黙れ」
「や……許して……」
「……許すも何も……僕は言葉の通り、ゆやさんの身体を頂いてるだけだ」
「……ひうっ」
ゆやがうめき声を上げながら身体を激しく跳ねさせる。
いや、いやと髪を振り乱す様を見て、本気で…、本気で狂が憎いと思った。
激しく腰を動かすと、堪えきれず、甲高い声を出す。
同時にちぎれんばかりに締めつけられ、最奥で熱を放った。

どうやって、ここまで彼女に己を刻み込ませたのだろう。
自分だって、これほどまでにゆやを愛しているのに…
受け入れようとしない彼女…
狂の記憶を消して、そこに自分を無理やり嵌め込んだとしても、それが満たされることはないだろう。
空っぽのまま、ただ為すがままの器に成り得るに違いない。

愛が欲しいのに…

欲しいのは、愛なのに…

頬に生暖かいものを感じて、ハッとする。
それは涙だった。
そして気付く。

ああ、僕は何て哀しい人間(ひと)なんだろう。

止まることのない涙が、自分の下で同じように涙を流すゆやの顔へ零れ落ちていく。
しかし、その涙さえも混じり合うことはなく、ただゆやの顔を濡らすだけだった。
京四郎は、それでもフッと静かに笑った。
そして、無理やり犯した愛情の形に目を向けた。
白い素肌の上に無残に咲く紅い華。
それを艶やかに見せるかのように、散りばめられた濁った水滴。
ゆやの口元が動いていたが、何を言っているのかは聞こえなかった。
もはや、聞きたくもなかった。
恐らく彼(狂)の名を呼んでいるのだろう…無意識に…
少しだけ、彼女のことも哀しい人間(ひと)だと思った。
器になってまで、自分を求めるのではなく狂を求めてしまう呪縛から逃れられていない。

京四郎はそんなゆやを抱き寄せ、叶うはずのない望みを口にした。

「ゆやさん、僕が君を愛すように、君も僕を愛して……」

お願いだから、僕に愛を下さい…