痴漢の女性に渡された白い封筒 私の性史1


 学生時代の初夏の頃だった。私は久しぶりに友人の家を訪ねた帰り、小田急線の梅ヶ丘の駅で新宿に行く電車を待っていた。日差しの強い日の午後だった。反対側のホームに、白いノースリーブでミニのワンピースを着た三十代前半の女性がいた。
 豊満な体型で胸と腰が薄い布を盛り上げ、ちょっと不釣り合いな黒の網タイツが妙にセクシーだった。私はつい、ちらちらと彼女の方を見てしまったが、男が彼女に話しかけたので、少しがっかりして鞄から本を出して読み始めた。

 電車に乗ってからも本を読んでいると、いい香水の香りがして隣に女性が座った。さっき反対のホームにいた女性だった。電車の座席はかなり空いているのに、必要以上に私に体を寄せてすわってくる。
 女性の腰の柔らかい肉付きや、腿の感触がなやましい。そのうち、手を私の太股に乗せてた。ペニスの上ではないが、ズボンを通して感じる熱い手の感触が、何とも言えない気分だった。

 私は本に集中できなくて女性を横目で見ていると、上品な顔立ちに濃い化粧をしている。暑いせいか顔が赤く、大きく開いた胸元が汗で濡れている。密着したからだからほてった体の熱が伝わってきた。話しかけることもできずそのまま新宿駅が近づくと、女性はバッグから白い封筒を取り出し、
「これを届けてもらえますか。お礼です」と、封筒と、五千円札を私に渡した。
 訳が分からず受け取ったが、女性は新宿駅の人混みに紛れてしまった。

 私は呆然とそれを受け取った。封筒には切手が無く、鉛筆書きで西新宿の住所が書いてあった。時間があったのでその住所に行ってみると、最後の地番は存在しない住所で、書かれた名前も見あたらない。差出人の名前もない。
 しょうがないので中を開けてみると、5.6枚のモノクロのヌード写真が出てきた。目が黒いマジックで消されていたが、明らかに封筒を渡した女性だった。
 美しい人だが,ヌードはもっと美しかった。性器を自分の指で広げたり、太い性器を加えたフェラチオ、バイブを入れた肛門など刺激的な写真ばかりだった。写真の裏には、「これはわたしです」とマジックで書いてあった。

 妙な出来事に動転して、その写真は新宿駅のゴミ箱にすててしまった。あの女性は誰だったのか、どんな目的があってウソの住所に封筒を届けさせたのか、不思議に思うことばかりだった。
 その謎は何年も私を悩ませた。10年ほどたった後、意外なところで彼女と再会するが、それはまた別の話である。

(香坂亮)

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