雪のアバンチュール  (2) 誘う


前回: 雪のアバンチュール (1) 穢(けが)れなき悪戯(いたずら)

 乗り換えの新幹線は超満員を覚悟していたのですが、臨時列車に空席が有ると聞いて、三時間後でも座った方が楽と、指定席を取りました。彼も今日中に帰れば良いので、二人分の席を取ってあげました。
「まだ少し早いけれど昼食を食べない?何処か美味しいところに、連れて行って下さらない?」
「ぼくも全然知らないんです。乗り換えだけで街に出ていないんで。でも、少し歩いて見ませんか?」
 荷物をコインロッカーに押し込んで、二人とも身軽に街に出ました。人の流れに従って歩くと、大通りから小路に入った所に、『活魚料理』と看板が見えました。
「ここで、どうお?」
「僕達には入れそうにもない、高級な店だけど」
 店は昼の直前でがらんとしていて、紺がすりの中年お女中さんに席へ案内された。
「空いていますからお座敷の方にどうぞ」
 廊下と障子で仕切った、品の良い小部屋に通されました。
「何になさいますか?」
「仙台は初めてなの。何が美味しいのかしら?」
「スキーのお帰りですか? 今は牡蝶が一番美味しい時期なんですよ。土手鍋なんかはいかがですか?」
「どんなので 土手鍋って」
「味噌仕立ての牡蠣鍋です」
「そう、美味しそうね。あなたもそれでいいで」
「ええ、うまそうですね。ご飯は大盛にして下さい」
「へえ、かしこまりました。どうぞ、ごゆっくり」
 と障子を締めると、二人きりになりました。
 電車の中のことがあったので、手でも握りに来るかと思っていると、全く純真な青年に戻っていて、スキーの話や運動部の資金稼ぎに、交代でスキー場にアルバイトに行っていること等しゃべり続けていました。腰を擦り寄せて、セックスを硬くしていた、さっきの男と別人のようです。
 料理が運ばれて来て、二人とも先を争う様に食べました。
店の人が勧めるだけに、生の牡蠣にちょっとだけ火を通した位が美味しくて、私も久し振りに満腹感を味わいました。
夢中で食べて一段落すると、躰が火照って来ました。
「食べると暑くなるわね。あなたは暑くなぁい」
 と私がベストを脱ぐと、その時彼の視線が動いたのを感じたのです。スキーで滑ったままで着替えずに来ているので、薄地のトックリのアンダーウェアーで、躰の線がはっきり出る服装だったのです。たった今まで真面目一本の学生だった彼が、盗み見るように胸に目線を走らせたのが面白くて、今度はブラジャーを直す仕草をしてみたのです。今度は、しっかりと食べかけの箸を止めて見詰めています。そして、視線が合うとまた真っ赤な顔になって、目を伏せてしまうのです。
 車中での痴漢と、まじめ坊やが入り混じっている彼をからかいたくなって、両手で.バストを下から支えて、乳首を指先で撫でながら少し胸を突き出して、
「あらっ、あなた興味ある?」
 彼は困った顔付きでしたが、それでも目線はしっかりと私の手の動きを追っているのです。
「うれしいわ。私なんてもうおばあさんだから、若い人達には見向きもされないと思ったのに。ねえ、こっちにいらっしゃいよ」
 彼は急にかぶりを振りながら後ずさりする気配でした。
「冗談、じようだんよ。さあ、沢山食べてね。私はもうおなか一杯だから」
 満腹すると急に足の疲れが出た様に感じて、彼が食べている間に足を延ばして、少しマッサージをしたのです。
 彼は最後のお汁まできれいにさらって、
「御馳走さま。ほんとに美味しかった」
 と行儀良く箸をおいて、
「僕、部でいつも上級生のマッサージをしてるから、揉んで上げましょうか」
 さっき迄のオドオドした感じとは違って、しっかりした態度で言うので、
「そお、やっぱり久し振りなんで、足が痛くなっちゃたわ。お願いしていいかしら」
「ええ、御馳走になったお礼です」
 慣れた手付で、投げ出した足を自分の膝の上に取って、指で強く足の裏を押してくれました。下腹部まで一本電気が走った様になり思わず、
「キクゥーツ」
 両足の膝から下を交互にマッサージして貰って、もうタイツの中が汗ばみました。
「腰から下が生きかえったみたい。お上手なのね」
「太腿から腰の上まですると、もっと楽になるんですが。叱られそうだから辞めておきます」
「あらっ、どうして。でも、ここでは変に思われるわね。電車の時間までまだ二時間もあるから、何処かでゆっくり揉んで貰いたいわ」
 意味を計りかねて、けげんな顔をしている彼の手を握って、
「ネッ、もっとマッサージをして。二人っきりになれる所へ行きましょう」
 耳元で囁いたらまた真っ赤になって、
「えっ、奥さん。いいんですか?」
「ねっ、ねっ。行きましょう」
 促すように言うと、彼も肯いたのです。
 それから彼の態度が急に優しくなって、コートを掛けてくれたり、ファスナーまで上げてくれる気配に、戸惑うくらいでした。コートを掛けながらさり気無く、私の肩や胴に手を触れるのです。
「さあ、はやく行きましょう。時間が無くなるわ」
 と言いつつ彼の腰に腕を廻すと、彼も力強く私の肩を抱いたのです。
 街に雪は全く無いのに、道路には北国特有の妙に白っぽい土けむりが立っています。
灰色の空の下に出ると、さっき店に入る時にはちょっとした知合の二人が、もうすっかり恋人気分でした。腕を絡めてコートの下に潜りこませた手で、彼の筋肉の動きを楽しみ、躰の温もりを味わいながら、近くのシティーホテルに飛び込みました。外の冷気に当たって緊張していた肌が、暖房でフト緩む気がしました。

 

良かったら「いいね」してください。誰でも「いいね」出来ます!


続き: 雪のアバンチュール  (3) 外国映画の恋人のように


みんなのコメント