土曜日の女


 街路樹の落ち葉を掃き掃除している男性。
 事務所からは女性事務員がごみを出しに出てきて、すぐにまた中に戻った。
 土曜日の朝、ふと眼にした光景は、かつての私を彷彿とさせた。

 「ちょっと、こっちへ来てくれないか」
 朝のごみ出しから戻ると、上司の声。
 「今日は、集まり悪いよな。みんなには道路のごみ拾いに行ってもらったわ」
 いやな予感がしてそれはすぐに的中しました。
 「これ」
 見るときのこの山は盛大に造山活動を続けていました。
 きのこのお世話は嫌いではなかったのですが、上司の六本木さんは逝くとき「お~」とか「あ~」とかとても大きな声を出すので、職場のみんなも、それとなく気づき始めていたのです。
 その日もマツタケの白露をしぼりとるとき、「お~」と動物的な雄たけびを発していました。

 「ところで真里チャン、頼みがあるんだ」
 「?」
 「実は、〇〇部長のとこ忙しくてさ。あいつがまた、2時間もかけて通勤してくるのさ。そこで、間に合わないからアパート用意してやったんだ。夕方行ってあげてくれないかな。給料は払うよ」
 「それって、ヤリ部屋ですか」
 「〇〇が君じゃなきゃだめだとさ」
 
 残業をアリバイに訪れたアパート。
 〇〇部長は短躯で肥っていました。
 「こう見えても僕はバレーボールをやっていたんだ」
 「私もです、部長」
 「だろう。わかってたんだよ。今度下着、売ってくれないかな」
 「差し上げます。のし付けて」

 10月下旬の10日間は何とか通いつめました。
 でも11月の下旬にも、年の瀬が近くてとか何とかの理由で、10日間通いつめました。
 そして年が明けて、1月の末にも、同じことがありました。
 すっかり夫婦のように〇〇部長とは意気投合していました。
 ぴんぽん。
 玄関の呼び鈴が。
 ドアを開けると見知らぬ女性が立っていて、隙間から中に踏み込まれてしまいました。
 その際、思い切り横っ面を張り倒されました。
 「お~」
 中からは、〇〇部長の断末魔の叫びが聞こえてきました。

 アパート修羅場事件のあと、〇〇部長は離婚、退社。
 その後の行方は、杳として知れなかった。

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