他人(ひと)の皮を被る 五話


前回:  他人(ひと)の皮を被る 四話

 翌日、須川から映像ファイルの添付されたメールが届いた。
 彼の言う通り、隣室の記録映像のようだ。

 晃は生唾を飲みながらファイルを再生する。
 カメラは由希が露天風呂に入っている間に部屋へ設置されたらしい。
 といっても明らかに盗撮だ。

 映像は浴衣姿の須川がレンズの向きを調節するシーンから始まった。
 カメラを設置し終えた須川は、由希が上がるのをビールを飲みながら待ち焦がれる。
 数分後、由希が身体から湯気を立てて現れた。
 雪のように白い肌が桜色に火照り、この上なく色っぽい。
 由希はタオルを身体に巻きながら、俯きがちにベッドへ座った。
 その横へベッドを大きく沈ませて須川が腰掛け、由希に酒を勧める。
 だが由希は断固としてそれを拒み続けた。
 それはそうだろう、須川のような好色親父に酔わされたらどうなるか解ったものではない。

 須川は残念そうに首を垂れた後、由希に向き直って当夜の『ルール』の存在を告げた。
 晃がレミに教わった、あの男女間のルールだ。
 由希は当然聞いていないと抗議するが、須川の一言で口を噤んだ。
「もしこのルールを拒否したり、破ったりした場合は、パートナーの男性に罰則が科せられるが……構わんかね?」
 須川がそう言うと、由希は暫く逡巡した後、仕方なくルール制度を受け入れた。

「よろしい。では私のルールだが……私は淑やかで従順な女性が好きでね、
 生きた人形に強く憧れている。ゆえに君へ求める条件はこうだ。

 『何をされても、許しがあるまで指一本動かすな』 」

 須川の条件に、由希は顔面を蒼白にする。
「そう脅える事はない。何もその美しい体を傷つけたりはせんよ。
 ただ人形のように私に抱かれて欲しいだけだ。
 それから、首から上は動かして構わん。女性の喘ぎは好きだからな」
 由希はそのルールに肩を震わせる。
 しかし否定はしない。
「……可愛い子だ。さあ、力を抜きなさい」
 須川は甘ったれた声を囁きかけ、由希のバスタオルを剥ぎ取った。
 そして由希をベッドに横たえ、静かに唇を合わせていく。

 由希は口づけを受けながらも、須川とは決して目を合わさない。
 須川はそれを気に留めた様子もなく、淡々と由希の唇をしゃぶった。
 その舌先は唇から鼻先へ、下顎へと移り、首筋を伝い降りる。
 そこからがレミの言っていた、本当に嫌な前戯の始まりだった。
「ふんんん……!!」
 由希がたまらない様子で鼻を鳴らす。
 彼女は須川に片腕を持ち上げられ、その腋の下を執拗に舐られていた。
 その映像を見て、晃はそら恐ろしくなる。
 晃も女の体を舐るのは好きだ。だが須川のねちっこさは晃の比ではない。

 首筋、うなじ、背筋、臍、脇、内腿、足指の間。
 細部の窪みに到るまで恐ろしいほど丹念に舐りまわし、的確なソフトタッチで性感をくすぐる。
 それがどれほど心地良いのかは、受けている由希の反応で見るしかない。
 しかし荒い呼吸やしこりたった乳首、一刻ごとに強張る手足を見て、感じていないというには無理がある。
「ううう……っ!!くううううぅん……っっ!!!」
 由希は歯を食い縛って体中の舐りに耐え忍んでいた。レミが言うように叫び出したいのだろう。
 だがおそらく、一度叫べば我慢の糸が切れると解っているのだ。
 跳ね回りたい極感を、声を殺す事でかろうじて押さえ込んでいるのだ。

 舐りはたっぷりと一時間半は続いた。
 レミが言った通り、晃達が風呂から上がった一時間の時点では、まだ由希は体中を舐られている段階だったのだ。

「ふむ、いい乳をしている」
 須川は由希の乳房を根元から愛撫していき、その先端に震える突起へ吸い付いた。
「ううあっ!!」
 無意識にか由希の身体が竦みあがる。眉根を寄せてなんともつらそうだ。
 須川はそんな由希の様子に満足げな顔を浮かべ、由希の太腿に手をかけてぐいと開かせた。
 そして今度は由希の茂みへ口をつける。
 一時間半も体の細部を舐って焦らしておき、ようやくの女陰責めだ。
 当然の事ながら須川の啜る秘部からは、潤みきった音がカメラにまで漏れ聞こえている。
「う、うん、くぅあああううっ!!」
 由希は声を上げていた。 しかし快感にというより、苦悶の声に思える。

 原因はすぐにわかった。
 須川はようやく秘部を責めようと思ったのではない。
 茂みの上で包皮を半ば剥きあげるほどに尖った陰核を、舌で舐り始めただけだ。
 つまりそれは、焦らした上での更なる焦らし。
「いや、いやああぁあ゛っ!!」
 由希は顔を左右に振り乱しながら泣くような声を上げる。
 達しそうになっては陰核から口を離し、また舌で昂ぶらされ……を延々と繰り返されているのだろう。
 それがどれほどつらい事か、男である晃にも想像はついた。
 前戯などという生易しいものではない。須川が行っているのは、明らかに拷問の域だ。

「ほれどうだ、イキたくてたまらんだろう。腰に散り散りの電気が走って、おかしくなりそうだろう?」
 須川が顔をぐしゃぐしゃにした由希へ問いかける。
「いぎたい、イギたいいぃっ!!もおおがしぐなるっ、イカせて、イカせてえええぇっ!!!」
 秘部を舐められ始めて何分が経った時点でか、由希は大声で懇願した。
 須川は陰湿な笑みで割れ目に中指と薬指の二本を沈める。
 須川が中で指を曲げ、激しくかき回し始めてすぐだ。
「う、ああぁあ!?いぐっイグイグうっ!!だめこれ、いくっいっちゃ、いっちゃはああううぅぅ!!!」
 由希が激しく身を痙攣させて絶叫しはじめた。
「おい、人形のようにしていろというルールは忘れたのかね?」
 須川が脅すと、由希はシーツを掴んで必死に快感を堪える。
「だ、だめっ、いく、いくいぐうっ!!!」
 だがすぐに背は跳ね上がり、内腿にこれでもかというほど筋を張って、再び須川の指遣いに翻弄されていった。

 カメラには由希のピンク色の秘裂に節ばった指が潜り込み、その隙間から蜜が漏れ出す様子がはっきりと映っている。
「うぅ、ううぅぅっ…………ッあ、いくいくいぐ、もうやめて、そこだめええぇっ!!!!」
「ふん、酷い顔だな。まあ散々に焦らされて、膨らみきったGスポットを私に擦られているんだ。
 耐え切れる女性など居たら、それこそ本物の人形だな」
 須川はそう語りながらも手首の動きを止めない。
 ちゃっちゃっちゃっちゃと鋭い水音をさせ、由希の秘部から透明な飛沫を噴き上げさせる。
 シーツにはその飛沫で、由希の尻を起点とした楕円状の染みが広がっていた。

 須川がようやく秘部から汁まみれの手を抜いたとき、由希は両脚をだらしなく投げ出して肩で息をしていた。
 清潔感のある顔は涙と鼻水に塗れて面影もない。

 須川は乱れた由希の姿を見下ろしながら、ゆっくりと浴衣を脱ぎ捨てる。
 その瞬間、晃と映像内の由希は同時に声を上げていた。
 黒光りする須川の逸物は恐ろしく大きい。
 太さで晃より二周り、長さは10センチは違う。まるで黒人の持ち物だ。
 しかもそれが、血管を浮き上がらせるほどの張りを見せている。
「いや、怖い……」
 由希が両手で口を押さえた。

 須川は逸物を悠々と扱きながら、その由希の股座にのし掛かる。
「……あの、ご、ゴムぐらい付けてください!」
 由希は震えながら、勇気を振り絞って叫んだ。須川が面白そうな顔をする。
「ほう、生は嫌か、なら君が付けてくれ。一時的に手の使用を認めよう」
 須川が言うと、由希は震える手で鞄を漁ってコンドームを取り出した。
 しかし袋を破って被せようとした時、由希の動きが止まる。
「どうかしたかね?」
 須川は全て理解している様子で訊ねた。
 由希が用意していたコンドームは一般的なサイズ、とても須川の剛直を包める代物ではない。
「……ぐっ……!!」
 由希は悔しげに、心から悔しげにコンドームを投げ捨てる。
 須川が嘲るように目を丸くした。
「愛しの彼に合わせたゴムでは、私には不足だったようだね。さぁ、力を抜きなさい」
 須川はそう言って、横を向いた由希の秘部に剛直を押し当てる。

 浅黒い亀頭が由希のピンク色の秘裂に沈み込んだ。
「あっ!」
 須川がビール腹を震わせて一気に腰を進めると、由希の背が仰け反った。
 痛みからか、汚辱からか、眉間には深い皺が刻み込まれている。
「いい締め付けだ。私の太いモノが食い千切られそうだよ」
 須川は上機嫌でさらに深く逸物を押し込んでいく。
 規格外の大きさの逸物に、由希の秘部が限界まで拡げられる。
 そうして暫し挿入を試みた後、半ばほどまで入ったところで須川が大きく息をついた。

「ふむ、普通にやってもここまでしか入らんな。膣の中も可愛らしいサイズだ」
 たった半分で、由希は苦しそうに眉を顰めている。
 だが須川はそこで諦めた訳ではなかった。由希の腰を掴み、繋がったままベッド脇に立ち上がる。
 駅弁と呼ばれる体位だ。
 男女にかなりの体格差がないと出来ないが、体格の良い須川は小柄な由希を楽々と抱える。
 そして大きな手で由希の尻を鷲掴みにし、激しく由希の身体を上下し始めた。
「いやあっ、お、奥に入ってる……!!」
 由希が悲鳴を上げる。
「おおう、これは最高だ。膣の形まではっきりと解るぞ!どうだ、君も逸物を感じるだろう、うん?」
 須川は歓喜の声を上げながら由希に問いかけた。
「……う、ううぅ…………!!!」
 由希は顔を歪めながらも、須川を強く睨みつけ、そして腕をだらりと下げる。
 ルールに従う余裕がある、という反抗的な意思表明だ。
 須川は嬉しそうに笑みを深める。
「そうだ、人形のように大人しく快感を受け入れなさい。天国に連れて行ってやろう」
 須川の言葉と共に、逸物が激しく由希の奥深くへ叩き込まれた。

 そこからは、駅弁での激しい交わりが延々と続いていた。
 どちらも言葉を漏らさず、黙々と肉を打ちつけ続ける。
 由希はだらりと腕を下げたまま耐えていた。
 その声は始めこそ苦しげな呻きだったものが、次第に色気のある喘ぎ声へと変わっていく。
 秘部からも愛液が溢れて須川の逸物に纏わりついており、感じているのは誰の目にも明らかだ。
 それでも由希は、絶対に須川と目を合わせなかった。
 視線を遠くの壁に張り付かせたまま、白い体を汗まみれにして突き込みに耐えていた。

「君は愛液が多いな、私の足にボタボタ垂れているぞ。下にバスタオルを引かねばならんタイプか?
 清楚そうな顔をして、困った娘だ」
 須川は由希をなじった。
 事実、須川の足には由希の秘部から溢れる蜜が幾筋も垂れ落ちている。
 そこまでになっているということは、当然突き上げの度に相当感じている筈だ。
「んん!……うんんんん!!」
 由希は顔を歪め、逸物が奥に届くたびに腰を震わせている。
 荒い呼吸で閉じなくなった口の端からはうっすらと涎の線が見え、足の指は快感にぴんと張っていた。
「……しかし、君の忍耐力には恐れ入るな。あれだけ焦らされて、ポルチオも硬くなって、
 それを何度も突き上げられても悶え狂わんとは。
 すでに何度も達しているだろうに」
 須川は由希を褒め称える。
 だがその口元は笑っており、音を上げるまで責めるつもりである事が明らかだった。

 由希はその後も気丈に耐え続けたが、20分が経った頃、ついに大きな変化が現れ始めた。
「あ、あああ、い、いく、いく、またいぐ、いいぐうっ……!!!」
 汗と涙に濡れていた顔からさらに鼻水までが溢れ出し、溺死する寸前のように激しく喘ぎ始める。
「ふん、達しすぎてもう呼吸もままならんか」
 須川は腰を使いながら楽しそうに由希を観察した。

 由希は快感を振り払うように何度もかぶりを振り、下げた手に握り拳をつくり、
 最後に天を仰いでぎりぎりと歯を鳴らす。
 だが須川が大きく由希の尻を上下させ、ぐちゅっぐちゅっという嫌になるほど粘ついた音が響くと、
 とうとう須川の頭に手を回して救いを求めた。
「ああああぁ、うあああああうっっ!!!」
 口を大きく開き、涙を流して須川の導くままに腰を震えさせる。
 秘部からは夥しい潮が噴きこぼれ、腿のような尻肉に沿って流れていく。

 結合を終えた後、由希は愛液の広がる床へ放り出された。
 汗に濡れたダークブラウンの髪を顔に張り付かせ、乳房を大きく上下させて肩で息をする。
 無残なその姿は海で溺れた人間そのものだった。

 須川は満足げな笑みで由希を見下ろす。
 逸物は結合前ほどではないものの、未だ人が目を疑うほどの大きさを残していた。
 須川はその逸物を指で整えながら由希に話しかける。

「随分と気をやったようだね、今までに経験がなかったほど気持ちよかっただろう」
 由希は疲労困憊の中、眩しそうな目で、それでも須川を睨み上げる。
 須川はその心意気に嬉しそうな顔をする。
「……ところで由希くん、覚えているかな。我々の交わしたルールは、
 『人形のように指一本動かさない』プレイであった筈だ。
 それを踏まえた上で、今回はどうだったかね」
 須川が問うと、由希が表情を固くした。
「そうだ。君は最後、明らかに私の首に抱きついた。
 前戯の段階で身悶えていた事は大目に見るにしても、あれは少々興醒めだ」
「そ……それは……あの」
 由希は返す言葉が見つからず、顔面を蒼白にしていく。

「そうだな、君自身も解っているようだ。この件は本来なら、連れの彼に通す事になる。しかしだ」
 須川は一旦言葉を切り、由希の視線を受けて続けた。
「私もこの歳になると、若い男女の諍いをあまり目にしたくはない。
 君の誠意次第では、不問としてもいいんだよ」
「誠意……ですか?」
「そう、誠意だ」
 須川は繰り返し、由希の桜色の唇に逸物を押し当てる。
「要求はシンプルに、君の口を使う。ただし今度こそ本当に、手も舌も使わない人形の奉仕だ」
 須川は巨大な剛直を由希に見せつけながら告げた。
 由希が顔を強張らせる。
 だが唾を飲み込み、意を決して頷いた。
「……わ、わかりました」
「いい子だ」
 須川が由希に顎を掴み、開かせた口に剛直を押し込んでいく。

「あ、あが……」
 由希は額に汗を浮かべ、顎が外れそうなほど口を開き、息を震わせてその瞬間を迎えた。
 やがて逸物が喉の奥まで届くと、須川が由希の頭に手を置いた。
「くれぐれも歯だけは当てないようにしなさい。いいね」
 その言葉に由希が目で頷くと、須川が腰を引く。そして喉奥へ向け容赦なく捻じ込んだ。
「ほごおおぉっ!?」
 由希の泣いて赤らんだ瞳が見開かれる。

 須川はそれから、全く遠慮のないイラマチオを始めた。
 カメラはその様子を横から捉える。
 由希の慎ましい唇に極太の剛直が出入りする所がよく見えた。
 剛直にはローションのように粘ついた由希の唾液が絡み付いている。
「うお、おおぉ、おぐっごおおぉええっ!!!」
 よほど喉深くまで入れられているのだろうか。
 由希は激しくえづき、正座した太腿を震わせていた。
 手はその脚の間に突かれ、苦しむたびに指で床を握りしめた。

「ああこれは最高だ、喉奥の震えがよく亀頭を締めるぞ!」
 須川は悦に入ったまま由希の頭を前後させる。
 「おごろえええぇぇっ!!!」
 由希がそれまで発した事もないような汚いえづき声を上げた。
 口に深く入れられたまま小刻みに頭を振らされ、カコカコと喉奥をかき回す音をさせる。
 その音程が少しずつ高まってきた頃、今度は素早く逸物が抜き取られる。
 濃厚な唾液の線で亀頭と繋がれながら必死に酸素を求めている間に、また深々と咥え込まされる。

 一番の奥底まで咥えさせられたまま、須川がじっと腰を留める事もあった。
「あ、あおええ……」
 由希はそんな時が一番苦しそうで、喉奥から苦悶の声を漏らし、目を細めて涙を零す。
 それが一体どのぐらい繰り返されただろうか。
 可憐な由希の顔が涙や涎、鼻水で見る影もなくなり、やがて床につく手が痙攣し始める。
 そしてついに限界が訪れた。
 須川に頭を掴まれ、何度も何度も喉奥に突きこまれ、須川がまた最奥で腰を留めて
 喉奥のうねりを楽しんでいた時だ。
「う゛っ!!」
 由希が突如頬を膨らませ、須川の腰を押しのけて口を押さえた。
 その細い指の間から黄色い半固体が溢れ出す。
「やれやれ、品のない事だ。結局人形になりきる事はできなかったな」
 須川はそう毒づき、由希の髪へ精を浴びせかける。由希は惨めな姿のまま目を閉じた。

        ※

 須川から送られた映像はここで途切れている。
 それを見終った時、晃は携帯にメールが来ていることに気付いた。
 由希からだ。

『 ホテルでは、ごめんなさい。あの時、ちょっと気が動転してて。
 すごく自分が汚れた気がして、康ちゃんにだけは触られたくなかったの。
 本当にごめんなさい。
 でも、あれで解った。私、やっぱり康ちゃんが好き。康ちゃん以外の人には触られたくない。
 ……もしも、こんな私でも良かったら、また康ちゃんがお休みの日にデートがしたいです。 
                                      
                                            由希   』

 そのメールを見て、晃はふと胸に痛みを感じた。
 罪悪感などという真っ当な物かはわからない。
 だがともかく晃は、由希にできるだけ優しくメールを返した。
 そして由希からの嬉しげな返信を確認し、康平の携帯を閉じる。

「…………康ちゃん、か…………」

 革張りの椅子へ深く沈み込み、晃は一人呟いた。

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