死の淵から


ふと外を見ると元気のいい子供と、車椅子のおばあちゃんが仲良く遊んでいます。
病室のベッドからは、妻が働いているスーパーが良く見えるので
調子の良いときは外を見るのが私の日課になっています。

小さい頃から少し体が弱く心臓に持病を持っていたことから
病室のベッドで寝ることに慣れているとはいえ
元気に働く妻をこの手で抱くことも出来ず日々悶々と窓の外を見る毎日に寂しさを感じていました。
妻と離婚すればこんな思いを感じることも無く一人で死ねるのだろうか?と
考えてみるのですが、眠りにつくたびに妻とのことが思い出され
やはり妻を愛していることを再度思い知るのでした。
考えてみると妻と結婚してからの私は、今までに無く元気で
妻や子供の顔を見るたびに『まだ死ぬことは出来ない』との思いで頑張ってこれたのだと
自分自身そう感じていました。

妻の諒子と結婚したのは26歳の時もう18年前のことになります。
当時私は心臓の持病に悩まされながらも技術系の仕事に就き
何とか日々暮らしているような状況でした。それなりに女性との付き合いもありましたが
持病があることに負い目を感じ、何時死ぬか分からないような自分と
結婚して不幸にさせるわけにはいかないとの思いから
深い付き合いになることも無く、このまま一人で朽ちていくのかと
絶望にも似た感情を持ち仕事にも中途半端な気持ちで望んでいたものと思います。
私が入社して1年後彼女は入社してきました。活発で気持ちのいい
私には持ち得ない生命力のようなものを持っていました。
そんな彼女に惹かれるのは時間の問題でした、しかし私にはどうしても
今一歩踏み出す勇気がありません
恋人とも友達ともつかない中途半端な状態でしたが日々諒子に対する思いが深くなることに
自分自身戸惑いを覚え、また諒子の気持ちも私に向いていると確信が強くなるにつれ
自分の事を告げる勇気が持てず私のほうから少しずつ距離を離すことにしたのです。
私の病気は日常生活に支障はありません、激しい運動を続けなければ
即死に至る心配もありません。しかし、幼少の頃から何度か死の淵を垣間見るにつれ
何時死んでもおかしくないと自分で思い込んでいたのかもしれません。

諒子と出会い1年経ち、煮え切らない私の態度に愛想を尽かしたのか
諒子の方からも接触してくる機会が少なくなってきました。私は心の中でほっとする気持ちと
どうしようもない寂寥感をもてあまし、これでいいと無理に自分に言い聞かせる毎日でした。
ある日同僚の田中が私に「お前諒子ちゃんと別れたのか?」と聞いてきました
私が「そもそも付き合ってない」と言うと
「へ〜本当に?でも諒子ちゃんはお前のこと好きだと思うぜ、でもお前がそういうなら
俺諒子ちゃんにアプローチしようかな〜」
「お前ならいいんじゃないかな」と言ってしまった後、私は胸が締め付けられるような思いを感じ
何度こんな思いを繰り返さなければならないのか?人を好きになるのを止められれば
苦しみから解放されるのにと絶望感ともつかない感情に支配されていました。

諒子から田中に付き合ってくれと言われていると聞いたのはそれから数日経った後でした
諒子が何故私にそのことを言ってきたのか、私には分かっていました
しかし、当時の自分にはそれを止める権利も無いと感じていましたし
田中と結婚したほうが諒子は幸せなのではないか?と感じていたのも事実でした
それから田中は私に見せ付けるように諒子にアプローチをかけていました
勇気の無い私は、それを正視することも出来ずそそくさとその場を立ち去るのでした。
それからしばらくして職場の親睦会の時の話です。
相変わらず田中は諒子にアプローチをかけていました。諒子もまんざらではないようで
2人で楽しく話しているのをいたたまれない気持ちで見ていました。
体のこともありお酒は極力飲まないようにしていたのですが、このときばかりは
私もお酒の力を借りなければ過ごすことが出来ず、明らかに許容範囲を超える飲酒に
とうとう体が耐え切れなくなってきました。
トイレに行こうと立ち上がるとふらふらと倒れて胸が苦しくなってきました、発作であることは
自分自身分かっていましたが、この時は死の恐怖よりこのまま消えてなくなりたいとの思いが強く
諦めにも似た感覚、遠くなる意識の中で諒子にせめて愛している事実だけでも伝えておけばよかったと
思ったことはよく憶えています。

目覚めると、諒子が私の顔を覗いていました。その時私は、最後に諒子の顔が見れて
良かったと思いました、私は諒子をじっと見つめていました目から涙が出てきます
意識が戻ったことに気が付いたのか田中が両親を呼んでいる声が聞こえます
諒子も目に涙を浮かべて私の肩を抱き、枕に顔をうずめ
涙を流し消え入りそうな声で「私もあなたのことが好き、だから死んじゃ駄目。
私が貴方を死なせない絶対に死なせないから」と泣き出してしまいました。
私はその時嬉しくて思わず諒子の首に腕をまわして「俺もだ」と言いました。
後から聞くと酒場で倒れたとき薄れる意識の中で諒子に「愛していると」告白したらしく
その後田中に冷やかされるネタになっていました。
田中も俺のことを心配し私に奮起を促すために諒子に迫っていたようで
それは諒子も分かっていたようでした。まんまと田中に乗せられた形でしたが
田中も「これでお前が踏ん切りつかなかったら俺が諒子ちゃんもらってたぞ。惜しいことをした」と私たちの行く末を祝福してくれ
私は田中に感謝しても仕切れない思いを抱いていました。
おかげでとんとん拍子に話が進み、諒子は「病気も含めて貴方、でも私と結婚すれば
毎日気が抜けなくてきっと死ぬことだって忘れちゃうよ。だから前向いて生きていこう」と
私はこのときどんなことがあっても諒子だけは幸せにすると誓ったのでした。

何も疑うことも無く人生で一番幸せなときでした。
一男一女をもうけ、子供達が大きくなり
長男が小学4年生、長女が1年生になって
手が離れ始めたとき、妻が
「私も外へ出て働きに行きたい」といって
近くのスーパーに働きに出ることになったのです。

妻が働きに出ることには私は賛成でした。もともと活動的でそれが魅力の妻です
子育ても一段落しこれから学費もかかることですし無理の無い範囲であれば
妻のためにも仕事をすることはいいことだと感じていました。
あくまでパートですし、仕事も子供が帰ってくる頃にはあがり
土曜日は朝から夕方までというシフトですので文句はありませんでした。
妻が働き出してから半年ほどして妻から
「日曜のシフトと月曜のシフト変わって欲しいと言われてるんだけど・・・
変わっても良いかしら?」と聞かれ
「お前がいいならいいけど日曜は何時まで?」「一応昼2時ごろまでなんだけど・・・・駄目かな?」
「あまり無理するなよ」「私なら大丈夫よ」「なら頑張ってな、俺も日曜に家事でもするよ」
「貴方にそんなことさせられないわ、でもありがとう」
ということで妻は日曜日も働くことになりました。

この頃妻も私も30代後半という年代でした。妻はいまだに私にとっては
一番魅力的でした、しかし年のせいもあるでしょうが妻が私の体を気遣って
夫婦生活のほうはかなり少なくなり月2回もあればいいほうでした。
私としてはもっと妻を愛したいのですが妻から
「十分愛されてます、私は貴方がいなくなるほうが怖いだからもっと自分の体を大切にして」
といわれてしまえば何も言えないのでした。
それだけに私の体調のいい日には必ず妻も応じてくれ私の物で気をやるのです。
私は決して小さい方ではないのですが、体のこともあり何回も出来ないので
必ず妻が気持ちよくなるように前戯をたっぷりとし、妻が満足できるように
おもちゃなども駆使して妻に奉仕していました。
妻はそんな私の気持ちを分かってくれ夫婦生活では必ず私に体をゆだね
心から感じて前戯で何度も絶頂を迎えるのです。
挿入後も私の物で十分奥までつくことが出来失神するかのごとく激しく感じ
私の体のこともあって騎上位が多かったのですが激しく前後に腰をグラインドさせ
「だめ〜もうだめ〜」と背中を大きく反らせ私のものを絞り上げるのでした。
妻は私との行為で初めて女の喜びを味わったと私に言います
過去一度だけ呟く様に
「一晩中貴方で何回もいかされて見たいけど貴方がいなくなるぐらいなら我慢できるわ」と言われ
そういう妻がいとおしくもっと愛したいのですが、妻は私が一回果てると
たとえ妻がもっとしたいと思っても「今日はお終い」といって2回目は応じてくれないのです。
それも妻の愛情からのことで、今であっても妻の私への愛情を疑ったことはありません。
しかし、時々夜に一人で慰めてる姿を見たとき自分の体のことが情けなく感じました。

日曜にシフトを入れるようになっても妻に疑わしいところは一切ありませんでした
しかし、日曜の働く時間が更に増えて5時ごろまでになり
他の日も妻の働きが認められリーダーとなったことで就業時間も増え
妻も疲れているのか月1回はあった夫婦生活も
段々減り、妻が働き出して2年経ったころには3ヶ月もレスになっておりました。
今まで私に気遣い私とのセックスが好きだった妻をちゃんと満足させられてないと感じていた私には
妻をとがめることもできず、また40にもなれば少なくなって当たり前という
友人達の話もあいまってしぶしぶではありますが納得せざるを得ないと思っていました。

ある日曜のことです、昼も過ぎ遅くなったのですが
台所で子供のご飯を作ろうとしたとき食材が足りないことに気が付きました
子供達に「昼ごはんを食べに行くついでにママの働いているところを見に行こうか?」
と日曜に久し振りに妻の職場に買い物にいくことにしました。
妻には恥ずかしいから来ないでといわれて主に食品しか扱ってない
スーパーに行く機会もなかったので働き出した直後は何回か行きましたが
妻が日曜日に働きにで始めてからは一回もいったことはありませんでした。

お店に着くと子供達は少しはしゃぎぎみにスーパーに駆け足で入って行きました。
まだ母親が恋しい年ですし、また出かけて妻に会うというのも何か新鮮な気がして
私も少しどきどきしていました。
長女が母親を探している間私は必要なものを籠にいれ
会計をする前に子供を探しました、しばらくして長女が店員さんと
話しているのを見て私も近くにより
「妻がお世話になっております、お仕事の邪魔をして申し訳ございませんでした」
「いえいえ〜リーダーには私もお世話になってますから」と感じのよさそうな
年配の奥様でした。しかしその後の言葉に私は息を飲むのです
「でも桂木さんいつも1時には上がっちゃうから今日はお帰りになってると思いますよ」
「え、・・・いつも1時上がりですか?」「え・・・あ、多分ひょっとしたら店長と上で会議かもしれないけど・・・・」
「店長さんは今どちらに?」「ど、どこでしょうね。今日は見て無いから・・・」
「そうですか・・・私の勘違いでした、すいません。では今日はこれで
お手を煩わせて申し訳ございません」「い、いえこちらこそ」とそそくさと立ち去りました。
私は子供から「今日はママ帰ったのかな?」と言われるまで呆然と立ち尽くしていました。

子供から声を掛けられ我に返り会計を済ませる間中
先ほどのパートさんの言葉が頭を巡ります。
日曜の出勤が延びたと言うのは妻の嘘なのでしょうか?
パートさんにあのような嘘を作る理由が見当たりませんし
実際妻はここにはいません。会計を済ませた後気もそぞろに車に乗り込みました
ふと駐車場を見回し妻の車を探しました。それほど大きな駐車場ではありません
ぐるっと回って駐車場内を見渡しても妻の車はありませんでした
ハンドルを握りながら何故妻がこんな嘘を言わなければならないのか?という事で
頭がいっぱいになり駐車場の出口で車の流れを見ながら悪い想像ばかりしてしまうのです。
子供達に「パパどうしたの?」と言われ、なんとか気を取り直して車を発進させるのですが
やはり何故妻がこのような嘘をつく必要があるのか理解できないでいました。

家に帰ってみてもやはり妻の車はありません。
家に入り子供達の「お腹がすいたよ〜」という言葉を聞くまで
またも考え込んでしまっていました。子供達の為にご飯を作りながら
妻の帰りを今か今かと待っている私がいます。
「ご馳走様」という子供達の無邪気な笑顔に少し救われながらも
今子供達と遊ぶ気にもなれず、自室で仕事するから2人で遊ぶように言って
早々と自室へ引きこもり、ベッドで寝転びながら何時間考えていたのでしょうか
妻の車が駐車場へ入ってくる音が聞こえてきました。
玄関を開け中へ入ってくると子供達の「お帰りなさい〜」という元気な声が聞こえてきました。
部屋からでて2階から玄関を見るといつものように妻に甘える子供達の姿が見えます
妻を見るとパートさんの一言で動揺する私が妻を信用していないように思え
ちゃんと妻に聞いてみようかとも思うのですが、私が妻を疑ったということを
妻に知られたくないと言う思いもありなかなか決心がつかないでいました。

私がゆっくり2階から降りていく途中で娘が「ママ今日はママのお店にいったんだよ。
ママいなかったけど、パパも残念そうだった〜」と無邪気に報告している声が聞こえました
私自身が問いただすかどうか気持ちも定まらないまま娘が聞いてしまったことで
私は少なからず動揺しました。
「え?今日来たの?そっか・・・・・ごめんねママ店舗の集まりで午後から本部のほうにいってたから、
ママも会いたかったよ〜」と妻が言うのを見て一瞬ほっとしました。
パートさんが言ったいつも1時上がりだと言う言葉に引っかかりつつも
動揺する様子も無く子供に説明する妻を見ると疑いを持った私が早計だったかとも思えてきました。
妻は私の顔を見ると
「どうしたの?少し疲れているようだけど・・・大丈夫?休んでいたほうがいいのじゃない?」
「いや、大丈夫ださっきまで少し横になっていたから心配要らないよ」
「そう・・・なら良いのだけど・・・あまり無理はしないでね、貴方の体が一番大事なのよ」
「ああ・・・ありがとう気をつけるよ」
いつもの優しい妻です、少なくとも私を気遣う心は偽りではないと感じます。

その夜やはり気になるので今日のことを妻に聞きたいという気持ちが出てきました
疑問を解消して自分の気持ちを軽くしたいという思いもあります。
いつものように子供を寝かせ明日の準備を子供と一緒に確認する妻を見て
妻が私を裏切っているなどと全く想像できないでいました。
私は先に寝室へ入り明日の仕事の資料に目を通していると
妻が髪を拭きながら寝室へと入ってきました。私が何か言うより先に妻が口を開き
「お店に来るなんて珍しいわね。でもいないときに限ってくるなんて間が悪いわ」
と明るく言うのでした。私はこのとき疑った自分を恥やはり妻は私を裏切ってはいないと感じました。
「あ〜悪いね、ちょっと足りないものがあったから。久し振りに諒子の働く姿を見てみようかと思ってさ」
「ふふ、でもあんまりいい格好じゃないから見られても複雑」と少しすねた感じで言いました
「店舗の集まりってしょっちゅうあるの?」
「ん〜しょっちゅうって訳でも無いけど他にも色々あるのよ、ミーティングとか」
「そっか・・・あんまり無理するなよ」
「へへ〜心配してくれるんだ」
「当たり前じゃないか・・・」と妻にキスをしてベッドになだれ込もうとしました
「駄目!」「なんで?」「今日調子悪そうだったから駄目」
「大丈夫だよ」「駄目」
「だってもう3ヶ月もして無いんだよ・・・」「ごめんなさい・・・でも今日は駄目」
「なら何時ならいいんだよ」「そんな我侭言わないで私は貴方のためを思って・・・」
「だからって3ヶ月もして無いのに・・・・俺のことが嫌になったのか?」
と私が言うと、真剣な眼差しで私の目を見て
「怒るわよ、私は貴方だけを愛してます。どんなことがあっても絶対・・・・」
「ごめん・・・・」「うん・・・じゃ寝ましょ」

妻が横になり私もそれに続いた。ベッドの中で先ほどの妻の台詞が頭の中をぐるぐる回っていた
(どんなことがあっても絶対・・・)いつもの妻の様子とは明らかに違う
何か思いつめたような悲壮感すら漂う目で私にそう訴えた妻の顔が
しばらく頭の中から離れませんでした。

私は妻に疑いを持ってしまった事に罪悪感を感じながらも
やはり私を拒絶する妻の態度に小さな不信感を抱いていました。
あれから3ヶ月ほどそれとなく妻に迫ってみるのですがやはりやんわりと拒否され
この前の妻の悲しい顔が目に浮かび結局無理強いは出来ないでいたのです。

長男の小学校の卒業式の時にはもう8ヶ月に達していました
私も週に一度程度自分で処理しておりそんな生活にも慣れてきましたが
やはり妻を抱けないことに小さな不満が積み重なり
いつものように妻に優しく出来ない自分に自己嫌悪しつつも
妻の態度に段々と尋常では無いものを感じておりました。

長男の卒業式当日、出席する妻はスーツ姿でその凛々しい姿は
妻の魅力を余すところ無く私に伝えるものでした。
あいにく休日にもかかわらず私ははずせない仕事があったので妻だけでの出席でした。
「今日はご苦労さん、久し振りにスーツ姿見たけど凄く綺麗だったよ」
「ありがとう・・・貴方にそういってもらえると何か嬉しい」
と私の胸に顔をうずめるのでした。我慢できなくなった私のあそこは段々硬くなり
「諒子・・・」と妻の名前を呼ぶと唇に軽くキスをして妻をベッドに押し倒しました
「駄目!・・」と妻はまたしても拒否するのです。
しかし私も我慢の限界です、妻の言葉を聞いていない振りをして妻の上着を脱がそうとしました
「止めて!」一際大きく妻が叫びました、私はそれでも止めず
妻の上着を脱がせ、張りのある妻の胸を下着越しに愛撫しながら
妻の背中に手を回し下着をはずしました。そして妻にもう一度キスをしようとして
私は妻の様子がおかしいことに気が付き、少し上体を起こして妻の顔を見てみると
妻は天井を呆然と見ながら涙を流していました。
私ははっとして妻から離れ妻を見ました。妻は目を閉じて静かに涙を流し
そしてゆっくり私のほうへ顔を向けると小さな声で
「あなたごめんなさい・・・・」というと大粒の涙が頬を濡らしていました。
私もそのときは妻を傷つけてしまったことに罪悪感を感じ
「すまない・・・どうかしていた・・」と妻の涙を見ながら私もなぜか涙が出て来ました。
妻は私の目を見ながらゆっくり首を横に振ると
「ごめんなさい・・・お風呂に行ってきます」と衣服を直しながら出て行きました
私は拒否されたことよりも妻にあのような涙を流させてしまったことに
酷く落ち込みしばらく寝室から動けないでいました。
しばらくその場で呆然としていたのですが、妻がなかなか風呂から上がってこないので
心配になりそっと風呂場へ行くと浴室から妻のすすり泣く声が聞こえてくるのです。
私は風呂場の外で妻の泣き声を聞きながら、自分のした事に後悔し
今すぐにでも妻を抱きしめ謝りたいと思いました。
しかしここまで妻が私を拒絶する理由も分からないのです、私は妻への信頼が揺らいでいるのを
感じましたが私自身それを認めたくない気持ちもあり、結局その場から立ち去り
飲めない酒を飲んで現実逃避することしかできませんでした。

翌日妻に謝ろうと考えるのですが、私を拒絶する妻の態度に納得できない部分もあり
タイミングを逃したままどんどん日が経って行きました。
心に釈然としないものを抱えながら段々妻との間に見えない溝が深くなっていくような気がして
焦りはあるのですが、妻に理由を問いただすきっかけも掴めずまた更に日が経っていくのです。

この状態は私の体を確実に蝕んでいました。ストレスからか時々胸が痛くなり
段々食欲も無くなっていくのです。妻も私の体を心配しかいがいしく世話を焼いてくれるのですが
それ自体もストレスになりある日出勤前にとうとう私は倒れてしまったのです。

病室で目を覚ますと妻が私の顔を見を見ていました。頬には涙の後が見え
私が「心配掛けたな・・・・すまない」というと、妻はまた涙を流し首を横に振りながら私に抱きつき
「貴方が生きていればそれで十分です・・・・」と言い私もそんな妻をいとおしいと思うのです。
今回はただのストレスと疲労から不整脈が起こったことが原因との診断から
2,3日入院した後退院できることになりました。退院当日妻が迎えにくると言ってくれたのですが
妻の仕事のこともあるので断りタクシーで帰り一人の家を満喫しておりました。
その日仕事上がりの同僚達が私の家にお見舞いに来てくれました、その中に田中もいます
田中とは妻と結婚の恩もあり仕事上でもライバル関係でよき理解者であり親友でした。
夕飯前には田中以外は帰りましたが、田中は私が引きとめたこともあり久し振りに友人として
少しお酒を飲みながら話していました。妻は料理などを作ってくれた後
お邪魔でしょうからと子供達をつれて子供部屋へと引き上げました。

しばらく他愛も無い話をしていたのですが、やはり最近おかしい私を心配して
「最近ちょっとおかしいけど何か悩みでもあるんだろ?わざわざ俺に残れって言うぐらいだから
俺に話して楽になるなら話してみろよ」と私を気遣って聞いてくれました。
限界に来ていた私はその言葉に思わず涙を流しながら妻と上手くいっていないことを
田中に話しました。田中は黙って聞いていましたがしばらくして
「そんなことがあったのか・・・・でも、諒子さんに限ってお前を裏切ることは無いと思うんだが
あんなにお前のことを思ってくれる嫁さんなんてどこにもいないぞ。でも確かに不可解だな
一度俺のうちに夫婦で来いよ、ひょっとしたら俺の嫁さんになら諒子さんも訳を話せるかもしれないし
女の悩みなら俺達には分からないからな」
と提案してくれました。田中の奥さんも昔同じ会社で働いており俺達より一つ年上で
諒子の先輩にあたる人です、諒子も結婚前は彼女にお世話になっていて私に話せない悩みも
彼女なら聞き出せるかもと思い、田中の提案を快く受けて今度の日曜にでも行くことになりました。

田中が帰った後妻に週末田中の家に呼ばれていることを話すと
妻も乗り気で快く了解してくれました。

退院しても一応念の為と言うことでその週は休むことにしました
妻も今日は休みのはずなので、久し振りに2人で出かけようかと言うと
「ごめんなさい・・・ちょっと友人の所に行かなければならないの、夕方までには帰ってくるから
折角の休みに誘ってもらったのにごめんなさい」と言われれば引き下がらざるを得ません。
妻は朝から用事をてきぱき済ませ私の昼ごはんを用意していました
私が暇を持て余し庭で犬と遊んでいると、妻が昼ごはんの用意が出来たことと
もう直ぐ出かけると声を掛けてきました。
それから10分も立たないうちに少し動悸がして家にはいったのですが
まだ5月とはいえ外は意外に暑く昨日そのまま寝てしまったこともあり
風呂に入りたくなったので下着とタオルだけ持って風呂場へと向かいました。
その時妻の姿が居間にも寝室にも見えなかったのですが別段おかしいとは思わず
友達に会いに行くと言っていた妻が風呂に入っているなど微塵も思っていなかった私は
風呂場にいるかどうか確認もせずに風呂場の扉を開けました。
扉を開けると下着姿の妻がそこにいて私はその姿に驚きを隠せませんでした
上下黒の下着でしかも下はほとんど妻のあそこを隠すことが出来ないほど小さく
妻の下の毛が見えてもおかしく無いようなものでした。
妻はしゃがみこんで「いや〜出て行って、お願い見ないで〜」といって泣き出してしまいました
私は妻の先ほどの姿が目に焼きつき頭から離れません
呆然と妻を見て私は衝動的に妻を無理やり押し倒し下着を剥ぎ取りました。

私はあまりの光景に言葉を失い、ふと力が抜けると妻は私の手から逃れ風呂場から走り去りました
ほんの少し呆然としていましたが、妻に聞かなければとの思いで妻を捜しました
私が寝室の扉に手を掛けた時、妻は着替えたところで私を突き飛ばすと
捕まえようとする私を振り切り泣きながら玄関へと走りました。
私も直ぐに追いかけ玄関を出る前に妻に追いつき妻の手をとってこっちを振り向かせると
妻は涙で顔がぐちゃぐちゃになっていました。
私は先ほどのことを問いただそうと口を開きかけると、またしても胸が締め付けられるように痛くなり
その場に倒れてしまいました。
倒れながら妻が「いや〜!」と叫んでいるのが分かりました。私は自分の胸を両手で掴みながら
先ほどの妻の姿を思い出していました。
妻のあそこは綺麗に剃られていたのです。

また病室のベッドで目を覚ますと、両親が私の顔を心配そうに見ていました。
ベッド脇に医者が立っており
「ちょっと興奮したのかな・・・心配ないと思いますが
一応経過を見るということでしばらく入院してもらいます」と両親に話しています。
私が目が覚めたのに気が付き医者が
「大丈夫ですよ、ただあまり無理をなさらないでください。しばらく静養することです
お大事に」と立ち去りました。
私は上体を起こすと両親に
「諒子は?」と聞きました、両親は「分からない・・・ここに運び込まれたときは諒子さんも
一緒だったようだけど私達に電話をした後どこかに行ったみたい」
「そうか・・・」「お前諒子さんと何かあったのか?」と父親に聞かれましたが
私には何も言えません。
その日の夕方、田中夫妻が見舞いに訪れてくれました。
田中は心配そうに私を見て諒子がいないことに気が付くと奥さんを先に帰らせて
私に話し掛けました
「まさかとは思うが・・・・諒子さんどうした?」
私は何も言えず悔しさと悲しさで自然と涙が出てきました。
そんな私の様子を察してくれたのか田中は何も言わずに椅子に座っていました。
しばらくして
「取り合えず帰りお前の家に寄るわ、子供や諒子さんのことも心配だろ?」
といってくれて、私も「すまない」と言い田中に自宅を見てきてもらうように頼みました。

それから田中はほぼ毎日見舞いに来てくれました。
田中は「諒子さんのことは心配するな。家のが色々世話を焼いてくれている
子供さんもちゃんと学校に行ってるしな、とりあえずはお前は静養するんだ
お前は子供達の父親何だぞ、しっかりしろ」
と私を励ましてくれるのです。とにかく体を直すことを第一に考え
諒子のことはしばらく考え無いように努力しました。
しかし夜になり一人になると悪夢のように思い出してしまうのです。
なかなか不整脈が治まらず結局3週間ほど治療にかかってしまい
仕事に穴を開けたことを申し訳ないと思いながら
やはり妻のことが気になって仕方ないのでした。

退院の日わざわざ仕事を休んで田中は私を迎えにきてくれました。
田中は車の中で私に話し始めました。
「桂木・・・お前に言っておかなければならないことがある。
諒子さんは今日お前達の家から出て行った」
「え・・・ど、どういうことだ!」「落ち着け・・・」
田中は私が落ち着くのを待って続けました
「今のお前の状態では諒子さんに会っても悪化するだけだ
諒子さんも今は離れたほうがいいと言っている。悪いが俺もそう思う」
「しかし・・・俺は真実が知りたい。そうでなければ先に進めない」
「分かってるさ、だがお前は諒子さんの夫でもあり子供達の親でもあるんだ
お前がしっかりしないでどうする?諒子さんも自分のしたことは分かってる。
1年だ1年我慢しろそれまでしっかり体を治すんだ」
「納得できない!なんで勝手に決める!?俺の気持ちはどうなるんだ!」
「・・・・・お前の気持ちを分かってるから、今は会わせられないんだ!
・・・・分かってくれ、皆お前を心配しているんだ」
私はどうしても納得できなかったが、田中は頑として妻の居所は話さなかったし
妻の両親も私には悪いことをした、離婚されても仕方ないけれど
どうしても妻とは会わせられないと言うのです。
それから妻の両親や私の両親、田中夫婦の助けを借りながら子供2人と
私だけの生活が始まりました。

当初は妻のことをくよくよ考えていた私ですが
理由も分からず妻と引き離された子供の方が私を心配し
色々と気を使っているのを見ていると、私が何時までもくよくよしてるわけにもいかず
段々立ち直ることが出来ました。
半年もたてば田中達の判断が正しかったことが自分自身良く分かってきたのです。
相変わらず妻のことは考えているのですが、段々悪い記憶から良い記憶を思い出すことが多くなってきました。

年末も過ぎ、結婚して初めて妻と過ごさない元旦を寂しく思い
もう何があっても妻を許そうという気にすらなってきました。
1月1日昼頃田中夫妻が子供を連れて正月の挨拶に来たとき
私は思い切って田中に妻に何があったのか知ってることがあれば
教えて欲しいと頼みました。田中は渋っていましたが
私が今の心境を話し妻と会う前に妻に何が起こったのか出来るだけ知っておきたい
妻に会う前に心の整理をつけておきたいと話すと少しずつ話し始めました。
田中は3ヶ月ほどかけて私の様子を見ながら少しずつ話しくれました

----田中の話----
桂木には偉そうなことを言ったが正直あの諒子さんが桂木を裏切るとは思えなかった。
俺の家庭も決して不仲では無いが、彼らは魂が呼び合うといってもいいぐらいの仲で
正直うらやましいと感じていたのだ。

俺は病院を出ると急いで桂木の家に向かった。
時間はもう6時半を回っていた。
桂木の家には誰もいないような気がしたが、駐車場を見るとちょうど
諒子さんが子供を車に乗せている最中だった。
このまま放っておいたほうがよさそうなものだが、桂木の落胆振りを見ると
どうしても放って置けなく余計なお世話だと分かっていても
諒子さんに事情を聞かなければならないような気がしていた。

俺は車を降りて諒子さんに挨拶をし、ちょっと時間もらえないか?と話をすると
今から実家に子供を預けに行くのでと断られました。俺は
「桂木から全部聞いた、俺は桂木のあんな姿見たことが無い
俺には話せないなら、嫁でもいい。とにかく俺は君達夫婦に不幸にはなって欲しくない
俺達で力になれることがあるはずだ。このまま何にも手を打たなければ桂木が壊れてしまう
頼む!諒子さん桂木を助けると思ってとにかく家に来てくれないか?」
と俺が言うと諒子さんは動揺していましたが、とにかく両親に子供を預けるので
その後ならと答えました。しかし俺は嫌な予感がしていて諒子さんはこのまま
姿を消すつもりなのではないか?とも思い何が何でも連れて行くと諒子さんを説得しました。
諒子さんも追い詰められていたのでしょう。段々ヒステリックにどいて!と言い出し
車の中の子供が泣き出しようやく落ち着きを取り戻すのです。
諒子さんは車の横に座り込み泣きながら
「終わってしまった・・・・何もかも失ってしまった・・・・
絶対に失いたくないものを自分で壊してしまった」とまるで魂が抜け出たような様子です。
俺は嫁に連絡し諒子さんと子供をつれて自分の家に向かいました。

俺は諒子さんを落ち着かせて自分の子供達と一緒に桂木の子供達を寝かせました。
その間妻が諒子さんの話を聞き俺が部屋に入ると
「あなたも一緒に聞いたほうがいいわ」と妻に言われ、俺も話を聞くことになりました。
諒子さんの最初核心には触れず自分が主人を裏切ったと
しきりに繰り返し時々死にたいと言い出すと、妻がそれだけは駄目
貴方母親でしょとたしなめるのです。諒子さんは子供残し両親に後のことを頼み
どこか遠くへ行き一人で働いて子供達のためだけに生きていこうと考えていたようです。

やはり諒子さんも真実を話すことに抵抗があったのでしょう。
俺達も詳しく聞くことをせず、話したくなるまで待つ姿勢でした
しかし、妻が色々話しかけると少しずつ事情を話し始めました。
この時はもう諒子さんは桂木が退院するまでに姿を消すことを
決心していたのでは無いかと思います。

「私は主人を愛しています。こうなってしまって信用されないかも知れませんが
本当に心から主人を、桂木勇を愛しています。それは今でもずっと変わりません
でも・・・私は主人を裏切ってしまった」
「桂木から聞いているが・・・一体どういう?」
「私は・・・あの男に体を許してしまった・・・」
諒子さんは、両手をひざの上で握り締めぼろぼろ泣いていました。
「あの男?・・・諒子さん・・・」
「私は自分が分からない・・・・」
「もういいよ・・・諒子さん、もういいから」と妻の美鈴が言うと
「よくない!私は・・・私は・・・、私のせいで主人は倒れてしまった
ちゃんと話すべきだって分かってた・・・・本当はそうすべきだった
分かっていたのに、あの男にされたことをどうしても主人に話せなかった
・・・本当のことを話せば私は軽蔑されてしまう、それぐらいなら
誤解されたままのほうがまだましよ!。」
「諒子さん・・・」と俺が言うと諒子さんは、涙を拭いて私達に土下座をするのです
「お願いします。私はこのまま主人の前から姿を消します
せめてどこかで働いて主人と子供達に償いたい
ですからお願いです、私を探さないように主人を説得して下さい。
厚かましいと思いますでも頼る人がいないのです。どうか・・・・」
「でも子供さんは・・・」
「子供のことは両親に頼みます・・・」「しかし・・・・子供に一生会わないつもりか?」
「子供のことは・・・どうすればいいのか分かりません。私がいれば主人を苦しめます
また倒れてしまうかも知れません。私には子供達から父親までも奪うことは出来ない!」
「しかし、桂木は・・・」
諒子さんは顔を上げ頭を抱えて叫ぶように
「じゃ!どうすればいいの!?私がいるだけで主人を苦しめる。私が苦しむのは耐えられる
でも主人や子供達は・・・」
「諒子さん!落ち着いて」妻が諒子さんの両肩を抱き、「私たちが力になるから・・・ね?」
諒子さんはしばらくしゃくりあげるように泣いて、「もう死にたい・・・」と言いました。

妻が俺に席をはずすように合図すると、俺は子供達の寝顔を確認し一人
寝室でこれからのことを考えていた。

諒子さんは次の日子供達をつれて自宅へと帰っていった
「大丈夫、いきなり消えたりしないわ。ただかなり思いつめてるだけに
諒子さんの体のことが心配ね」
妻は諒子さんを見送りながら俺にそういった。

昨日の晩諒子さんを落ち着かせ寝たのを見届けると
妻は俺に
「諒子さんずっと自分を責めてたのね・・・自分が許せないみたいだわ」
「そうか・・・なんでこうなってしまったんだろうな」
「私にはお互いを縛ってるように思うわね。諒子さんは自分が
夫に対して一切曇ること無い愛情を持ち続けなければ
夫がいなくなると感じてるんじゃないかな?桂木さんも同じかもね・・・
お互いが相手のことを受け入れようとして無理して
相手に受け入れられる形になろうとしているようなそんな気がするわ」
妻はいつの間にか持っていたビールをぐいと飲むと
「人間なんてちょっと他所向いたり、寄り道したりしながら
生きていくもんだと思うんだけどね。」
「おいおい・・・怖い事言うな〜」
「あら?あなた心当たり無いの?」
「いや・・・・どうかな」と俺は苦笑いをしてしまった。
「ま〜どっちでも良いわ、それでも貴方と私は一緒にいる
頑張って一緒にいたいと思うこともあれば、鬱陶しいなと思うこともあるわ
私、桂木さんたちってお互い求めすぎて揺らぎがないと思うの
お互い堅物同士じゃない?私だって貴方に隠してることの一つや二つ
あるわよ、でも知られたって離婚になるとは思えない
そういうルーズさって結婚に必要だと思うの」
「お前さ・・・・こんなときにそんな告白しないでくれよ。気になるじゃないか」
「へ〜まだそういう気持ちあったんだ」
「なんだよ、そりゃ」と俺もビールを煽ると妻が続けて
「桂木さんも桂木さんよ、奥さんが怪しい行動してるのに
見てみぬ振りなんてさ、おかしいわよ。
妻を信じるって言えば聞こえがいいのかもしれないけど
馬鹿なことやってそうならひっぱたいても連れ戻すもんでしょ?
許す許さないは後の話しじゃない、本気で愛してるなら
ぐちゃぐちゃになるまでもがくべきよ、私ならそうするわ」
「でもさ、桂木は病気もちなんだし・・・」
「それよ!それが逃げ口上なのよ、そりゃ私は幸い健康だから
彼の気持ちは分からないかもしれないわよ?だからって
それに逃げて真実を知るのが怖いって言う訳?
それじゃ諒子さんが可愛そうじゃない、諒子さんは諒子さんであって
彼のお母さんでも保護者でもないのよ。
愛する男に母親を求められるなんて冗談じゃないわよ
男ならさ大事なものの為に戦って欲しいじゃない、例え諒子さんを許せなくて
離婚になったとしても、このままじゃお互い後悔するだけだよ。そんなの・・・悲しいじゃない」
「そうかも知れないな・・・」
と俺は最後に空になるまでビールを飲んだ。
「あなたそれでどうするつもりなの?中途半端に足突っ込んでも
余計に話がややこしくなるだけよ。本気で関わるつもりなの?」
「このまま放っては置けない」
「そう、なら止めないわ・・・でも離婚するかどうかってのは
本人達の問題よ。私たちが出来るのは冷静になる時間を与えることぐらいよ。
後は貴方が桂木さんのお尻を引っぱたくことぐらいね」
「まったく・・・頼もしいことで」
俺は笑いながら言ったが、確かにこのままやり直しても
上手くいかないだろうと思っていた。

妻はほぼ毎日諒子さんの所へ行っていた
諒子さんは子供のことが気がかりでありながらも
今のまま桂木と暮らすことは逆効果であると決意を曲げなかった。
しかし、子供には母親も必要であると俺たちが言うと
やはりそこが一番の問題であり、夫と同じぐらい子供を愛している
諒子さんにとって両方と離れて暮らすのはやはり耐え難い思いでしょう
このまま姿を隠し続けることが解決の道ではないことは
諒子さんも分かっています。しかし桂木の体のことを考えると
それほど迷ってる時間は無いのです。結局諒子さんのご両親と俺たちは
取り合えず1年間協力して諒子さんの居場所を桂木に教えないことを確認しました
諒子さんは始終頭を下げたまま、自分のしたことの愚かさを
全身で感じているように肩を震わせうつむいていました。

この間例のあの男から連絡があったのか分からないが
諒子さんは自分で何とかするといって聞かないので
俺たちからは何も出来ないでいました。
とうとう退院の日が決まって諒子さんは子供達に
「しばらく会えないけどパパと元気で暮らしてね・・・ごめんね、ごめんね」
と別れを惜しみ退院前日夜に出て行きました。
出て行くとき私達に礼をし
「ご迷惑かけて申し訳ございません、今までありがとうございました
ご恩は必ず返します」
と言って去って行きました。

俺が桂木を迎えにいき、このことを伝えると桂木は酷く動揺し
俺を責めました。俺と妻は諒子さんのご両親とともに
諒子さんの決意を伝えました。
しばらくは落ち込んでいた桂木も徐々に落ち着きを取り戻し
当初ほど諒子さんの居場所について聞くこともなくなってきました
妻は諒子さんと時々連絡を取っていたようですが
俺はあれ以来一度も話すことも無く、妻から近況を聞く程度で
詳しくは聞けないでいた、変に聞いてしまうとぼろが出てしまいそうで
あえて聞かなかったのです。

しかし半年を過ぎて正月に桂木と話をし、桂木の思いを聞くと
心が揺れ今の状態であれば少しずつ話しても大丈夫だろうと思い
俺は桂木に知っていることを話すことにしました。

田中や美鈴さんの話を聞きながら、私は妻の心境を思い
また私自身の甘えや不甲斐なさを感じ
私自身も変わらねばと思うのです。
私は妻にいつも変わらぬ愛情で私を守ってくれる母親を求めていて
桂木諒子という一人の女性を求めてはいなかったのかもしれません。
妻も間違いを犯す平凡な人間であることを許さなかったのは
他でもない私自身なのでしょう
今妻を一人の女性桂木諒子として愛せるのか、私には分かりません
しかし私の中にはいつも諒子がいて、このまま諒子のことを何も知らないで
諦めることはどうしても出来なかったのです。
私は、田中に今の私の気持ちを綴った手紙を渡し諒子に渡して欲しいと頼みました。
私は返事が来るまで何回も手紙を書きました
どんな事実があろうとこれから2人で乗り越えていきたいと
どれほど苦しくても絶対諦めないと

妻からの返事が初めてきたのは、妻が出て行ってから
もうすぐ1年経とうするころでした。

---最初の手紙---
まず最初に貴方にあのようなことをしてしまい、本当に申し訳ありません。
そしてあなたに謝ることも出来ないまま
あなたの前から姿を消してしまったことを私は悔やんでも悔やみきれず
いつか誠心誠意謝りたいと思いつつも弱い私はあなたに手紙を書くことも出来ませんでした。
そして日が経つにつれ美鈴さんから立ち直って行くあなたのことを聞き
嬉しく思うとともに、私がいなくても大丈夫だと言う事実に
自分勝手ながらひどく打ちのめされていました。

今更だと思われるかもしれませんが、本当にごめんなさい

あなたの手紙にお返事を書くことを今まで躊躇っていたのは
私自身あのことを貴方に知られるのが怖かったという思いもありますが
貴方が私を過去のこととして乗り越えるために、真実を知りたいと
思っているのなら私にはどうしても教えることが出来なかったからです。
最後まで自分勝手な女と笑ってください、それでも私はせめて貴方の記憶の中では
今までの良かった私のままでいたく、あのようなことをしてしまった女だと思われるのが本当に怖かったのです。
しかし貴方の手紙を読むにつれ貴方も私も真実を知って乗り越え無ければ
過去にとらわれたままで未来を見られないと感じました。

私は、あのことを知られるのが本当に怖い
真実を全て語り終える頃には貴方はきっと私を軽蔑するでしょう
それでも、真実を語るのが貴方に出来るせめてもの償いと思い
貴方の望むように私が犯した罪を告白したいと思います。

---------

妻の最初の手紙は短いものでした。しかし次から送られてくる内容は
非常に驚くべきものでした。私は男との関係を知る段階になり
妻の告白を読んで行くともっと詳しく男とどういう行為をしたのか
知りたい欲求を抑えられません。妻は詳細な描写は出来るだけ省いていましたが
私は、妻がどういうことをされどういう風に男の手に落ちたのか
どうしても知りたかった。そして妻のされた行為を想像すると
嫉妬で胸が苦しく妻がされたことを知らなければ先に進めないと思っていました。
私は卑怯にも妻の私への負い目を利用し妻に行為の部部分の告白も要求しました。
しばらく返事が滞りましたが、妻も決心したのか
かなり詳細に妻と男の行為の内容からそのときの心境まで生生しく書かれていました。
私はその告白を読み、辛かった妻の心境と卑怯な男の行動に
怒りそしてやはり妻を取り戻したいと心から思うのです。

その夜も私は昨夜の恐怖を忘れられず
眠りにつこうとすると思い出され悪夢に苛まれていました。
夫の背中にすがりつき必死に耐えていると
あまりの疲れに次第に眠りにつきました。
いつものように目覚まし時計が鳴ると私はびっくりして飛び起き
あたりを見回しここが寝室であることを思い出し
一人胸をなでおろすのです。

夫と子供を送り出す間は忙しくなんとか思い出さずに済んだのですが
一人になるとまた思い出され、仕事に行くことなど考えられなくなっていました
そんな時電話が鳴り恐る恐る取ると店長からでした
店長は昨日の様子から無理であればしばらく休んでいいと言ってくれ
私は電話口で泣きながらありがとうございますと繰り返すのです。
また一人になるとあのときのことを思い出し恐怖と悲しみと
最後は男達のもので達してしまったという事実が
夫に対する罪悪感となって私に重くのしかかるのです。
その日の昼ごろ私を心配した店長が訪ねてきてくれました
店長は私が何をされたのか分かっていることでしょう。私はあのような目にあっても
夫に話す決心もなく、一人で耐えることが出来るほど強い人間ではありませんでした。
店長はあのような目にあった私を放っておけ無いといって
何かと面倒を見てくれました。そして頼るものを探していた私はすがってしまったのです。
あの事件があってから店長なりに探ってくれていて犯人が見つかれば
このことを公にしない変わりにテープを取り返せるかも知れないと言ってくれ
そのときの私にはそのことに望みをかけることしか出来ませんでした。
そして頻繁に店長と個人的に会っているうちに事件は起こりました。
ある日店長から話があると言われ喫茶店で待ち合わせをし
店長を待ちました、店長は少し遅れて店に入り
「すまない・・・まずいことになった」と言うのです
「何があったのですか?」と私が聞くと
私と頻繁に会っていることを奥さんに不信に思われ
興信所をつけられ何回も会っているところを写真に取られ
怒った奥さんが出て行ってしまったという話でした。
私もその話を聞きまさかこんなことになるなんてと思いました
考えてみると私だって夫が頻繁に他の女性と二人きりで
会い続けていれば、浮気を疑うかも知れません。
しかし店長は私を助けてくれようとしただけであり
私と浮気をしてはいません、私のせいで店長までも
辛い目にあってしまって私はあまりに申し訳なく思い
店長に私のことを正直に話し奥さんと仲直りしてくださいと頼みました。
しかし店長は妻とはもともと上手くいっていなかった
これはきっかけに過ぎないから、気にしなくて良いと言うのです。

私は店長にまで迷惑を掛け家庭を壊してしまったことに更に罪悪感を感じ
最早私は全てを夫に話し店長の奥さんに謝罪するしか無いのでは無いかと思いました。
私は店長に
「これ以上迷惑をかけるわけには行きません、誤解されるようなことをしたのは
間違いありません。でも、店長は私のことを心配して・・・
店長には感謝しています。でもこれ以上私と関わっては本当に離婚になってしまう。
私仕事やめます、辞めて夫に全てを話します。ですから離婚なんて言わないで下さい
奥さんからどんなお叱りを受けても構いません、私が浅はかだったのです。」
というと店長は私のせいではないというのです。
しかしこれ以上私にかかわると本当に離婚になってしまう
それだけは駄目だと何度も店長を説得しました

しかし、ある日いつもより落ち込んでいる店長から
とうとう離婚になったと聞くと私は何も考えられずどうお詫びすればよいのか
また、このようなことに巻き込んでしまって申し訳ないと
心から店長に詫びました。いくら上手くいっていなかったとは言え
店長の落胆振りは私をひどく動揺させました。
私は何か出来ることはないかと考えるのですが、私には何も出来ません。
しばらく話していると、店長は朝から何も食べてないんだと言うので
私はせめてと思い台所を借り食事の用意をし始めました。
店長は後ろから見ながら、
「桂木さんが嫁さんだったら良かったのにな・・・」
と言いました。私は戸惑い返事が出来ません
すると店長は私を後ろから抱きしめ
「諒子さん・・」と
私は戸惑いましたが店長の気持ちを思うと拒否することも出来ず
ただじっとしていました。店長は私から離れ
「すまない・・どうかしていた忘れてくれ・・」と力なく言いました。
私は店長のほうを見ました、店長も私を見ていました
しばらくお互い見つめあいとうとう店長はまた私を抱きしめました。
私はこの人を助けたいと思いました、いえ本当は私が助かりたかったのか知れません
私は卑怯な人間です、自分に様々な言い訳をしながら
店長の求めを断ることは出来ませんでした
店長は激しく私を愛しました、私は店長の気持ちを感じ
せめて今は店長を愛そうと思いました。そして私はあの事件以来
無理やりではなく初めて自分から男を求めそして夫以外のもので
達してしまったのです。

私は行為の最中は、店長のことを考え店長のことを求めていました
しかし、終わったあとふと我に返ると自ら夫を裏切ってしまった
罪悪感で私は心が締め付けられるように痛くなり
そしてシャワーを浴びながら心のなかで夫に詫び
しゃくりあげるように泣いてしまいました。
そんな私を見て店長は、「すまない」と謝って
私を抱きしめてくれました。私は店長を押しのけ
服を着るとそのまま家へと急ぎました。

家に帰り夫の顔を見ると私は自分のしてしまったことの愚かさと
浅はかさに吐き気をもよおしました。最早このまま夫と一緒には暮らせない
私は汚れてしまった、心までも一時夫を裏切ってしまった私はここにいる資格などないと
そう思いました。それから数日間店長とも会わず私は自己嫌悪と
夫を裏切ってしまった罪悪感から精神的に不安定でした。
私の様子がおかしいことに気が付いたのか自然と夫は
私を抱き寄せました、しかし私はあの時確かに夫を裏切ったのです
今の私には夫を受け入れる資格はない、私は穢れてしまったという
気持ちが湧き出て夫を拒否してしまうのです。
しかし夫の何時に無く力強い抱擁に次第に抵抗することも出来なくなり
私はせめて最後に夫に抱かれたいとまた自分勝手に思いました。
いつものように私にたくさんの愛情を与えてくれる夫の行為に
私はこのようなこともなくなるのかと思うと寂しく思い、そして激しく夫を求め
夫が果てると私は自然ときつく夫を抱きしめ、涙があふれ
やはり私の求めているのは夫なのだと心から感じたのです。

私はこのとき夫に真実は告げず、離婚する決意をしていました
夫や子供と離れることは私にとって死ぬよりつらいことかもしれません
しかし自分を守るため周りを傷つける事に耐えられず
夫や子供に対して自分の犯した罪の事を考えると
私には償いの人生しか残されていないと思いました。
あの事件のことも1ヵ月半何も無く幾分か安心していたと言うのもありますが
何かあったとしても一人なら自分が苦しむだけで済むと思ったのです。
仕事の昼休みの間に私は店長に仕事を辞め夫と離婚する事にしたと話しました。
私の決意が固いことが分かると店長は最後に家に来て欲しいと言い
私は決して夫を裏切るまいと心に決めて店長の家に行くのです。

今考えると私が店長の家に行く理由など
本当はありもしないのかも知れません。私は店長の家に行く道すがら
夫とのことを考えていました。
私は夫からの愛情を疑ったことはありませんし、私も夫への愛情を
自分自身疑ったことはありませんでした。しかし、先日の店長との
行為の中で私は今までになくお互い体を求め合うことに没頭しておりました。
私は自分自身が分からなくなり、夫を確かに愛してるとの実感を持っているにも
関わらず夫以外の男性のことを例え1時とはいえ求め
そして夫以外の男性で感じることを求めた自分自身のことを考えていました。

私が夫との行為で始めて女の喜びを感じたのは結婚してしばらく経った頃でしょうか
その時私はこれほど幸福感にあふれ、夫をいとおしいと思ったことはありませんでした。
私はそのときの幸福感が忘れられず、次の日もう一度あの快感を味わいたいという
体の奥底から湧き上がってくる欲求に抗うことは出来きず
軽蔑されてしまうのではないかという恐怖感を持ちながらでも
結婚してから初めて自ら夫を求めてしまったのです。
しかし夫は軽蔑などせず自分の体のせいで私を満足させられていないのではないか
と思っていたと言い、私のこのような淫らな変化をも受け止めてくれました
私は夫に抱きつき、夫のことだけを考えそして夫にこれからされることを考えると
最早ほかの事など考えることは出来なくなっており
自分の体の欲求の赴くまま夫を求めていました。
夫は私の求めに応じ私を何度も絶頂へ導き、そしてそのような私をやさしく見つめ
体全体で私を受け止めていてくれるのです。
私が夫を一晩に何回も求めたのはこのときが後にも先に最後でした
この時夫の何回目かの射精を体の奥に感じたとき、私はとうとう今まで味わったことの無い
快感を味わい、頭の中が真っ白になり気絶してしまったのです。
気がついたときはまだ夫と繋がったままでした、私はキスをしようとし夫の顔を見て
ふとわれに返ったのです。夫は苦しそうにそしてそれを出来るだけ悟られないように
優しく私に笑いかけてくれていました。
私は呼吸の合間に見える夫の苦悶の表情を見て、夫が私の求めに応じることが体の負担になると言うことを
改めて思い知るのです。

私はあの時初めて連続で絶頂に達し続けることで、今まで感じたことの無いような
快感を得られる自分の体のことを知りました。あの時の幸福感と一体感は
何物にも変えがたいものです、しかし同時にそれは夫の命を削ることになり
私はそれからと言うもの自分の体の欲求と夫を失う恐怖感の中で
ジレンマに陥り結果自分自身で夫との行為を抑制してしまうようになるのです。
しかし一度火がついた体は容易に私を解放してくれません
私は自分が行為に没頭すると夫を壊すほどの性欲を持っていることを恨めしく思いました
そして夫との行為では必ず夫が一回行けば終わるようにコントロールするようになってしまったのです。
それは夫のことを心配してのことではあるのですが
何よりそれ以上続けてしまうと自分自身もう我慢が出来なくなってしまうからなのでした。
夫がいなくなることは私にとって死よりも耐え難いことなのです。
ましてやコントロールしだしてから夫は私を満足させるべく前戯に時間をかけるようになり
こんな淫らな私を夫なりに愛してくれようとする心を感じ
ますます夫の体を第一に考えるようになりました。
そしてそれは同時にあの時感じたような幸福感を捨て去ることを意味していました。

店長の家に着く頃、私は店長や男たちの行為を思い出していました。
男たちの行為はもちろん店長であっても、あの時の夫との行為を
上回るものではないということに思い至り自分自身を納得させていました。
しかし今思い返してみると、それは一時とは言え体の満足を求めてしまった自分への言い訳なのかも知れません。

店長の家の呼び鈴を押す前私は玄関口で帰るつもりでした。
それは夫を裏切ることを自分自身が耐えられなかったこともありますが
何より例え無理やりされてしまっても、最後には屈服してしまうのではないかと
自分自身怯えていたのかも知れません。

玄関に入ると店長はいきなり私に抱きつき
「会いたかった・・」と私に言いました。
私はいきなりのことに戸惑いながら、店長の胸を押し
「このようなことは、やめてください・・・私はもう前のようなことは
夫を裏切ることはしたくないのです。」と言いました。
店長は、私から離れると俯き
「すまない・・・」と消え入るような声で言い続けて
「あのときから俺は桂木さんのことを愛してしまった・・・
貴女がご主人のことを愛していることは分かっている
しかし、例えしばらくの間だけでもいい・・・
私のことも愛してくれないだろうか、俺はもうこの気持ちを抑えることは出来ないんだ」
私は店長のこの告白を聞き動揺してしまいました。
店長はなおも私を抱きしめようとし私は必死に抵抗しました。
しかし男の力にかなう筈も無くとうとうキスをされると
私は店長の腕のなかで崩れ落ちてしまいました。
店長は私を抱きかかえるとそのまま寝室へと私を連れて行き
またキスをして私のブラウスを脱がし始めまたのです。
私は我に返り必死に抵抗しました、しかしいつに無く強引に店長は
私を押さえつけとうとう下着姿にされてしまいました。
店長は服を剥ぎ取ると、隣の部屋に投げ込みました
私は声を上げて止めてくださいと懇願するのですが
店長は「愛しているんだ・・・諒子さん」と私の名前を呼び
下着越しに愛撫を始めるのです。
私はまたあの時の恐怖が蘇り、子供のように泣きながら
「やめて〜お願いします、お願いします・・・」
店長に懇願していました。
しかし店長は愛撫をさらに強くしていき、私の体は徐々に反応してしまうのです。
私はこのような状況でも反応してしまう自分の体を呪い
そして最後にはまた求めてしまうかも知れない恐怖感から
嗚咽を漏らし無様に泣いてしまいました。
しばらくして店長が私の中に入り、店長が何度目かの射精をした時
私はまたしても絶頂を感じてしまいました。
そして私が達したことが店長に分かると店長は
夫以外の物で絶頂を感じた私をことさら強調し私の心砕いて行くのです。
私は夫との記憶にすがって、あの時の行為のことを思い出していました。
何度も何度も店長に貫かれ、いったん達してしまうと
何度でも達してしまう自分の体のことを呪いながら
それでも私は忘れることの出来ない幸せを思い涙を流すのです。

店長が最後の精を私の中に放出し終わり、私は絶望感を感じていました。
また感じてしまった、また達してしまった
決して求めてはいないのに必死に堪えているのに最後には負けてしまう。
もう夫には戻れない私は体の欲求に負けてしまった
夫を裏切ってしまったとの思いが心を支配していました。

シャワーを浴びながらひとしきり泣き、そして浴室からでると
店長が私を抱きしめました。私は始めてこの男に嫌悪感を抱き
振り払うと店長の頬を打ちました。
店長のこのときの顔は忘れられません、不敵であり
厭らしくそして私を馬鹿にしたような下劣な笑いです。
そしてこの男は私に
「さっきまで俺の物を咥えて喜んでた割にはずいぶんだな。
何も知らないのは亭主ばかりなりか・・・」
というとビデオのリモコンを持ち再生ボタンを押しました

そこには、最初に店長と交わった時の光景が映し出されていたのです。

私は何故このような物が映されているのかしばらく理解できないでいました。
店長は不適に私を見て、何も言わず少しずつ音量を上げて行きました
私は呆然としそしてこの事態を徐々に理解して行くのです。
声も出ず信じられない思いで店長を見ました、店長はこちらを見ることなく
じっとビデオを見ています。私は帰ることも出来ずただただ何が起こっているのか
それすらはっきり分からないまま崩れ落ちてしまいました。

店長はビデオを消すと何も言わず一枚の写真を私に渡しました。
それは店長との行為を写した写真でした。
店長はそのまま不適な笑みをたたえたまま、私を玄関口まで連れて行き
「それでは、さようなら・・・」とだけ言って
扉を閉めました。

私はいったい何が起こったのか、そして店長の目的は何なのか
店長はいつあのような写真を撮っていたのか?何も分かりませんでした
青ざめた顔で車に乗りハンドルに顔をうずめ
考えていると底知れぬ恐怖に襲われるのです。
何とか家に帰り着き夫が帰ってくるまでの間
私は枕に顔を埋め震えていました。
あの時、自分の弱さゆえ店長を求めてしまったこと
助けて欲しい人に助けを求めなかった愚かさ
そして最早夫に助けを求めることは出来ない絶望
何にもまして底知れぬ不気味さを持つあの男
私に待っているのはいったい何なのでしょう
これから起こることを思うと不安に駆られ
夜も寝られなくなり、そして私は家族の頼ることも出来ないのです。

あのときから1週間店長は私に一切接触しませんでした
しかし写真だけは毎日送られてきます。時には郵便で
時には社内メールでとうとう家の新聞の中に挟んであることもありました。
まるでじわじわ痛めつけるように私を追い詰めて行くのです
このままではいつか家族にばれてしまうその恐怖感で気が狂いそうでした。
これは罰なのだあの時店長に助けてもらいたいと思い
店長に抱かれた私に対する罰なのだ
そして何回考えてもこの地獄の終わりは夫との破局なのです。
どんどん具体的に夫との離別を考え始めました
必死にいい材料はないかと考え抜きました、たった一回の過ちであれば
夫は許してくれるのではないか?とも考えました
しかしこのようなことを夫に言って夫の体は大丈夫なのだろうか?
悲嘆にくれる夫を想像し、私はどうしようもない悲しみに襲われ
そして店長の家に行った時、私は夫のことを愛してると誰よりも一番と
自分に言い訳しながら、店長との行為を心の奥底で期待していたのではないか
夫が一番であることは間違いないということを自分で確かめて、いやそれによって
自分自身の罪悪感を軽くしたかったのかも知れません。
私は、私は・・・・
自分の心と向き合い私は自分の心が分からなくなってきます
しかし私は確かにあの時夫を確実に裏切っていました。

そしてとうとう私は自ら店長の家に行ってしまうのです。
最早あのようにじりじり追い詰められてこれ以上びくびくしながら
生活など出来ません。私がおかしくなってしまうか夫にばれるか
どっちが先かという状況です。
そして店長は自ら来た私を無言で迎え入れました。
私は結局ほとんど脅しに近い状況でまた店長を受け入れざるを得なかった
ひとしきり自分の欲望を満たした店長は私に
「今日から毎週日曜の午後と木曜日にここに来るように
嫌なら来なくていい、あくまで君の自由だ」
その日から私の地獄日々が始まりました。

しばらく店長は、私をただの欲望の処理道具のように扱いました
店長は行為に及ぶまでは怖いくらい無言で私は常に何をされるのか
びくびくしながら待っていなくてはなりませんでした。

この頃の私の心はぐちゃぐちゃでした。普段どおりの夫の態度にすら
影で涙を流すことも珍しくなく、情緒不安定の私の態度にも困惑しながら
気遣ってくれます。しかしそれが更に私の心を掻き乱し
私は夫に抱きしめられる度に全て話してしまいたい、楽になりたいと考え
次の瞬間にはこの人を失いたくないと思うのです。

店長の行為は更にエスカレートして行きました。下の毛を無理やりそられた時
店長は私に「これで旦那と出来なくなったな」と無表情に私に言い
私は、取り乱し泣き叫び初めて「この男を殺すしかない」と思いました。
ある日私はかばんに包丁をしのばせ店長を刺し殺そうと
店長の家に行きました。玄関を開け店長が後ろを向いたとき私は店長を刺そうと
しました。しかし運悪く店長に気付かれ
「俺をさすのは構わないが、あの写真は俺以外の人間も持っているぞ。
次は誰のおもちゃになるのかな?」
と薄ら笑いを浮かべ私に言いました。
そしてこの日から店長の私への残虐な行為が始まりました。

店長の行為はあくまで私を痛めつけることを目的としているようにしか
思えませんでした。
抵抗している私を無理やり組み敷き私が我慢できなくなるまで
じらし続けそして私は最後には店長にお願いするしかなくなります。
店長は私に屈辱感と罪悪感より体の欲求をとってしまった
ふしだらな女だと私に何度も言い聞かせるのです。
店長は私の心を砕くことに楽しみを見出している本当の鬼でした
私が店長に我を忘れさせられ何回も達している最中突然目隠しを撮り
ビデオをつけます。そしてそこには私たち家族の映像が流れているのです。
私は見た瞬間あまりのことに泣き叫び、その様子を見た店長は満足げに
更に私を激しく突くのです。
この様に心を砕かれると私は次第に何も考えたくなくなり、ただただ涙を流しながら
店長の体にしがみつき快感だけに集中してしまうのです。
行為が終わり我に返るとただただ体の快感を求めてしまう自分が情けなく
そして泣いている私に店長は、先ほどの泣きながら店長にしがみついている
場面を私に見せるのです。

そのように何回も心を砕かれそして快感だけを考えるような状況を与え続けられているうちに
私は店長に貫かれるだけで快感を感じ、そして確実に店長とする前とは
私が変わっていることを感じていました。
私はこの頃自分の事を冷静に考えることもできなくなり
夫を愛しているのか店長を愛しているのかも分からなくなりました。
この様なことをしていてはいつか夫にばれる、夫にばれれば全てが終わる
そんなことは分かっていました。
結局自分が辛いから問題を先延ばしにしていただけです
そして消えてなくなりたいと思っていたそんな時
夫に久しぶりに求められたのです。
私は夫に久しぶりに抱きしめられ、店長とは違う優しい抱擁に激しく動揺してしまいました
この様に優しく抱きしめられたことは店長との行為ではありません
そして求めてくれる夫を嬉しく思いながらも私は夫には答えられないことを
思い出し、心ならずも夫を拒否してしまいました。しかし夫はこの時
少し怒り止めようとしてくれません、そして下着に手が掛かったとき
私は抵抗するのをやめ天井を見ながら
「これで全てが終わる、私は夫に捨てられ店長に全てを奪われるんだ」
と思うと何も言えず涙があふれてきました。
夫が私の顔を覗き込んだとき、
夫は私が涙を流していることに気がつき私から離れ「すまない・・・」と言いました
この時私は忘れていたものに気がついたのです。
店長は私を愛してはいない、分かっていたはずなのに
何回も抱かれているうちにもう店長の物になったほうが楽なのではないかと
私は思い始めていたこと、そして夫は理不尽な仕打ちであるはずなのに
私を気遣ってくれたこと。そして裏切りを知らない夫は今でも誠実に私を愛し続けていてくれたこと

私はシャワーを浴びながら一人泣いていました。もう止めよう
こんなことはもう駄目だ、たとえ夫にばれてもこれ以上誠実な夫を裏切ることは出来ない
いえ自ら夫に話全てを告白し夫に許しを請おう、許してくれなくても
一生夫に償いながら生きて行こうそう思いました。
私は店長と決別するための行動を始めて開始しました
この時私は店長と決別することに迷いはありませんでした。

夫はいつでも誠実であったと思います。
私に向ける気持ちに嘘はないと感じれるものでした
私はどうなのでしょう?
先日の出来事があってから私は夫との関係について考えていました。
私は夫を愛していると自分では思っていました
しかしそれであれば店長に何故体を任せたのでしょう?
夫は私のことを責任感が強くて情が深いとよく言っていました
しかし・・・・
いつの間にか夫の存在が当たり前になっていたのではないか
私は・・・・本当に夫のことを愛していたのでしょうか?
考えてもなかなか答えは出ません。
いえ本当は分かっていたのかも知れない、しかし私は
自分でそれに気がつきたくなかったのでしょう

この頃ちょうど店長は新店を任されるかもしれないと
少し忙しくなり今までのように定期的に呼び出されることも
少なくなっており、決別の意思を伝えたときはもう
あれから2週間ほど経っておりました。
私がもう会わない例えばらされてもと言うと
「ふ〜んそうかやっと決心したわけだな」
「どういうことですか?」
「止めようと思えば今でなくても止められただろう。
本当に夫にばれそうにでもなったか?無理も無い話しだ」
「違います!私は・・・・例え私がどうなっても
これ以上夫を・・・」
「どっちでも一緒だ、止める気になれば止めれるってことは
今まではそこまで本気じゃ無かったってことだ。
ま〜どんなに貞淑そうな女でも自分にいくらでも言い訳できるうちは
人のせいにして上手く続けるもんだ」
「違います・・私は・・・」
と私が言うと店長は私を強く抱いて
「言い訳が欲しいだけだろ」
と言い私を押し倒しました。
この時店長という人間に始めて心から嫌悪感を感じました
私が本気で押し返そうとすると、更に強く抱き
「静かにするんだ、俺の言うとおりにしろ」
と言われた時、何故か体が動かず固まったように
抵抗できなくなりました。
怖いのです、厳しく命令されると体が動かなくなってしまったのです。
私は何よりこの事実にショックを受けました。
とうとう心までも店長に縛られこの時店長の行為では
ほとんど恐怖しか感じず、快楽に身を任せることもままならず
この事実が余計に今までの自分が店長を受け入れていたことを自覚させ
自分の浅ましさと店長の言った
「自分への言い訳が欲しいだけ」
という言葉が心の奥にとげのように刺さっていました。

私の迷いと呼応するかのように夫と私の間に
溝が出来て行くのを感じていました。
夫を大事に思う気持ちに嘘は無いと自分では思っていました。
しかしいつの間にかそれは家族としてのそれだけになっていたのかも知れません。
夫の体のことを考え、自分を抑制するようになってから
私は出来る限りこの家族を守って行こうと考えていました。
そうしているうちに自然と夫を一人の男として愛することを
少しずつ忘れていたのではないか・・・・
この様な考えが頭の中を支配しそして自分で打ち消すように
そうではない夫を愛している
とまた頭の中で繰り返すのです。

夫が倒れたのは店長に恐怖を感じてから数日後のことでした。
出社前に玄関口で崩れるように倒れる夫を見て
私は愕然とし、体の奥からわきあがってくる恐怖を感じました。
その後のことは無我夢中で仕事も休み夫が目を覚ますのを
じっと待っていました。
夫が目を覚ましたとき心のそこから安堵する自分を感じ
私自身ほっとする気持ちであるのと同時に
この感情が家族としてだけのものなのでは無いかと
考えてしまう自分にはたと気がつき
また自己嫌悪に陥るのです。

夫が退院する前の日私は意を決して店長に電話し、もう一度店長に
決別の意思を伝えました。しかし店長は
「俺は別にいいが、君が耐えられないんじゃないのかな?
何なら旦那の前でいつものようにしてやろうか」
「主人は関係ありません!」
「関係ないとはね・・・まあいい君が来ないならこっちから行くまでだ」
「・・・・それだけは止めてください」
「それじゃまた」
と電話を切られてしまいました。
私は恐怖で体が硬直し、頭の中で前のことが思い出されました。
また店長に抱かれるだけで体が動かなくなるのではないか?
もし夫がいる間に店長が家にやってきたら夫は興奮して
また倒れてしまうかも知れない、その時私は店長の呪縛から
逃れられるだろうか?
私に自信はありませんでした。
散々悩んだ末私は結局自ら店長の家に行くことを店長に伝え
いつまでこんなことが続くのかと思うと酷い絶望感に襲われるのです。

夫が退院した当日は、夫の友人達も訪れ夫も楽しく過ごしていたようです。
あのように笑顔を見せる夫を見て、最近私に笑顔を見せることが
ほとんどなくなったということに思い当たり
また激しい自己嫌悪に襲われました。
私はこの時からこの家族にとって今や私は必要ないのでは
いても悪影響しか及ぼさないのではと考え
私がいないほうがいいのかもしれないと思い始めていました。
しかし自業自得であると分かっていても今まで自分が
大切に育ててきた家族との絆を捨て去る勇気も無く
しかし店長との関係を切る勇気も無く
夫には知られたくないと思いながら、夫を愛しているのか悩む
このときの私は自分自身をもてあますほど
矛盾を抱えた中で生きていました。
自分の気持ちの確かであるはずの物が何一つ確かであると思えなくなっていました。

次の日夫は私に「久し振りに2人で出かけないか」
と言ってくれました。
夫は私が理不尽な態度を取っているにもかかわらず
それでもなお私に優しいのです。

どうして私は店長との関係を切れないのだろう?
これ以上夫を騙し続けていくことに何の意味があるのだろう
店長が飽きるまでずっと私は夫を拒否し続けて生きていくのだろうか?
それは夫を愛してるのではなく、私自身この生活を
無くしたくないだけなのでは無いだろうか?
今の生活を無くしたくないことと夫を愛していることは
同じことなのだろうか?だからと言ってこんなことを続ける理由なんて無いのに
私の中で答えの出ない問答が延々と繰り返されていました。
しかし夫が家にいるにも関わらず
無意識にお風呂に入って準備をしている私がいるのも
また紛れも無い事実です。

そのような自分の姿を鏡で見ながら私はどこで
間違ってしまったんだろうと考えていました。
体を拭き下着を履きドライヤーで髪を乾かそうとした
その時浴室の扉が開きました。
夫がそこに立って私の姿を見ているのです。
私ははっと気が付き「見ないで」と声を上げ泣いてしまいました。
夫は一時唖然とし、そして次の瞬間私に覆いかぶさり私の下着を
剥ぎ取ったのです。私の秘部は店長に剃られていましたから・・・
夫は私の秘部を見るとそのまま固まってしまい、その隙に
私は下着を手に取ると一目散に寝室へと向かいました。
何も考えられない・・・ただ何もかも無くしてしまった実感だけは
私の中に確かな事実としてありました。
『もうここには居られない・・・私は必要ない』
その言葉だけが頭の中を支配しています。
寝室から出るとき夫と鉢合わせし、一瞬夫の顔が見えました
その瞬間私は背中がちりちりと痛みそして
夫を突き飛ばし涙がこぼれるのが分かりました。
夫の手を振り切り玄関に向かう短い間ただここから逃げることしか
考えていませんでした。
私はこうなっても最後まで夫に向き合うことから逃げたのです。
玄関口で夫に捕まり私は何も考えられず、ただただ泣くことしか出来ないで
夫に何も言えず手を振り払おうとしていました。
その時夫が突然胸を押さえその場に蹲り何か言いたそうに口を開くと
そのまま倒れ、そして私は頭を抱え泣き叫ぶことしか出来ませんでした。
夫の呼吸が乱れぐったりした時、私はとっさに救急車を呼び
呼吸器を夫の口に当て、泣きながら必死に救命措置をしていました。
救急車が来て夫に付き添いながら夫の手を握っていると自然と
「ごめんなさい、ごめんなさい」
と言っている自分に気が付きました。そして夫がかすかに口を開いて
「諒子・・・諒子・・・」
と私を呼ぶのです。そして夫に顔を近づけたとき夫は
目を閉じながら
「すまない・・・愛しているんだ諒子・・・」
とうわごとのように言っているのです。
私はその場で崩れ落ち頭を抱えながら震え、救急隊員の人に抱えられなければ
車を降りることも出来ません、そしてしばらく椅子に座っていると看護士さんに
「大丈夫ですか・・・旦那さんは命に別状は無いようですよ。安心してください」
と言われた時私は人目を憚らず号泣してしまいました。
看護士さんは私の身を気遣いながら
「これだけ思ってくれる奥さんが居て旦那さんは幸せですね」
と言うのです。私は思わず「貴方に何が分かるの!」
と怒鳴ってしまいそしてすぐに自分がしてしまったことを思い出し
気が狂いそうになりました。

そこからは私もどうやって家についたのか憶えていません
ただ病院から夫の両親に連絡したのだけは憶えています。
家に帰ると玄関で夫が倒れたことが思い出され
もう自分自身でどうしたらいいのか分からなくなっていました。
しばらく玄関口で呆然としていると
「来ないと思ったら・・・旦那でも死んだか?」
と聞こえました。私が振り向くとそこに立っていたのは
店長でした。私は首を横に振りました
「じゃばれたって所か・・・・」
不思議と店長を見ても何にも感じません
憎いともすがりたいとも・・・感情自体無くなっていたかも知れません
店長はゆっくり私に近づき
「もう君に行く場所は無いだろ?今度私は転勤になる
なんなら君の面倒は俺が見てやるから一緒にくるか?」
と言い、そして私は肩を落とすように頷いてしまいました。

私は考えることを止めて淡々と家を出て行く準備をしていました。
しばらくすると子供が帰ってきたのが分かり
子供を両親に預けなければと思い、両親に連絡したのだと思います。
このときのことははっきりとは憶えていません
ただ子供達は私の態度に不安を抱いたのか泣いていたのだけは
なんとなく憶えています。そして車に乗り出て行こうとした時
私の前に田中さんが立っていました。
田中さんにも暴言を履いたと思います、しかしあの時田中さんが
私を止めてくれなければ私の末路は店長の慰み者になっていたのだと思います。
田中さんの家に向かう途中私は色々考えていました
これからのこと、夫とのことそして店長のこと・・・・

田中さんの家で美鈴さんと話しながらも私はどこか現実離れした感覚の中に
居ました。田中さんたちと話している間も現実感に乏しく
自分が何を言ってるのかよく分かっていませんでした。
夫を裏切ってしまった、でもずっと夫を愛していたはず
しかしそれが本当なのかと考えると・・・・
店長が憎い・・・でも関係を止められなかったのは私
夫の前からいなくなりたい・・・・私には夫の前に出る勇気は無い
じゃ子供は?でも私が居ては夫をもっと苦しめる
逃げたいだけ?そうかもしれない・・・
どうすればいいのか・・・私には全然分かりませんでした。
田中さんに「これからどうするの」と聞かれても
私にはちゃんとした答えなど無いのです。
このときも私は全ての責任を店長に押し付け
私は悪くないとそう自分に言い聞かせるのが精一杯でした。

次の日から私は結局店長の所へ行くことも無く、また仕事にも行かず
何も考えずただ子供の世話だけをしている状態でした。
私の様子を心配した田中さんが両親に連絡し
私を父の兄の元へ預けることが決まったときもどこか人事のように
感じていました。子供の前でだけ見せる正気の部分と
一度子供がいなくなるとまるで幽霊のような私を見て
このままでは夫も私も壊れてしまうと考えたのでしょう。
私は夫と一生会わないつもりで父の提案を受け入れ
夫が退院する直前私は夫の前から姿を消しました。

-----妻の最後の手紙----
あの日貴方が玄関口で倒れた時、私は救急車の中で
貴方が言った愛しているという言葉を聞き
初めて貴方に愛していると言われた時のことを
思い出していました。
私が忘れていた気持ちを取り戻した時
私の前に広がっている絶望の淵に気がつき
自分の過ちを・・・どこで間違ったのかのかを
気がついたのかもしれません。
私の人生が狂ったのは決してホテルで乱暴されたからでは
無いのです。私は私自身で貴方を裏切ることを
選んだ時から貴方に平気で嘘をつける人間になってしまった。
貴方には謝っても謝り切れないほど酷いことをしました。
もう元には戻れません。
貴方の人生にご多幸があらんことを

              諒子
---------------------------------------
手紙には離婚届が同封されていました。
私は何も言えず、ただ妻のことを考えていました。
それでも私は妻を愛しているのだろうかと
幾度も自問自答しました。
妻を取り戻したい、私の妻は諒子だけだ
何度考えてもそう思えました。
私は何としても妻に会うべく義両親に
妻に会わせてくれと詰め寄りました。

最初妻の両親は答えをはぐらかし
妻の居場所を教えようとはしませんでした。
私は「なら何としても調べてやる。興信所を使っても
妻の手紙から大体の場所は分かってるんだ
このまま離婚なんて納得できるか!」
と言い義父兄の住所が分かるものを調べ始めました
義父が止めるのも聞かず、電話帳を調べ
はがきを調べ義父兄の住所が分かると
とうとう義両親も観念したのか
肩を落としながら義父が
「勇君・・・すまないあの子は今兄のところにはいない」
「どういうことですか!?今諒子はどこに?」
私の剣幕に義母が驚き
「勇さん諒子は・・・」
というと義父が義母を制し
「あの子の行き先はおそらくあの男のところだろうと思う。」
「あの男?店長のことか!?」
「そうだ・・・あの男は、すまない私達が馬鹿だったんだ
私達があの男の脅しに乗ってしまったばっかりに・・」
「脅し?」
「私はあの子のことを思ってあの男と話をつけ様とした
このままあの男に証拠を握られたままでは、諒子は君のところへ
戻れない、だから私はあの男に金を・・・」
「お父さんまさか・・・」
「あんな卑劣な男がいるなんて・・・」
「お父さん落ち着いて事情を話してください」
「私はあの男を探し出し一切関わらないことを約束してくれと
話に言ったんだ。こちらから訴えないことと引き換えにと
そうしたらあの男は
『訴えるのはあなた達ではなく旦那さんでしょう?
そうですね旦那さんに訴えられたら仕方ないでしょう
でも旦那さんこのこと知ってるんですか?
知らないなら気の毒だから俺が教えてあげようかな』
とあの子の卑猥な写真を取り出し
『これがいいな・・・教えるだけじゃ信憑性無いから
これも一緒に送ることにしよう』と言うのだ。
私がそれだけはやめてくれ!と頼むと金を要求され仕方なく・・・」
「何故!何故ですか!私に相談してくれればこんなことには・・」
「もうこれ以上あの子を傷つけたくなかったんだ!」
「いくらです・・・全部で」
「積もり積もって500万ほど・・・」
「1回じゃなかったんですね?でも何でそれが諒子がいなくなる理由に?」
「あの子は知ってしまったんだ私達が脅されているのを・・・
それで私に隠れてあの男のところへ会いに行ってしまった。
そしてまた隠れてあの男と会っていたんだ・・・私達は元気を取り戻したと
思っていて・・・兄の店で手伝いをしていたからまったく疑ってなかった
まさか夜に抜け出して会っているなんて・・・そして気がついたらあの子は妊娠を・・・」
「何ですって!?」
私は目の前が真っ暗になるのを感じていました。

義父は呆然とする私に語りだしました。
「1年前あの子は本当に抜け殻みたいだった。やっと
少しずつ元に戻り始めたのに・・・あの男がいる限り
あの子は君の元には戻れないんだ。あの子は心底後悔していた
ずっと自分を責めて・・・私はそんなあの子を救ってやりたかった」
重苦しい沈黙の中私はふつふつと湧き上がる
黒い感情を抑えることは出来なかった。
「お父さん・・・あの男は今どこにいるんですか?」
「勇君もう止めてくれ・・・あの子のことは・・・」
「うるさい!諒子は私の妻だ!あなた達がもっと早く私に相談していれば
こんなことにはならなかったはずだ!諒子は、あの男は今どこにいるんですか!?」
私は怒りに心を支配されていました。
そして義父から無理やりあの男の居場所を聞くと
私は会社に一週間の休みを申請しあの男
【黒澤勇】
のところへ向かうのです。

黒澤の転勤場所は我が家から車で3時間ほどのところで
義父の兄の所からは1時間ほどのところでした。
私は真っ先に黒澤が勤めている店に行き、敵の顔を始めて確認した時
生まれて初めて人の命を奪いたい衝動に駆られました
いつも死を隣に感じてきた私です、私は人の死をも
自らに投影し死と言うものをずっと恐れてきました。
しかし、あの男だけはあの男だけは別なのです。
私の大切な物、ずっと失いたくないものを奪っていった男
私はあせる気持ちを押さえ黒澤が店にいることを確認すると
諒子がいるはずの家、黒澤と諒子が暮らしているはずの家に
向かいました。

黒澤の家はごく平凡なマンションの4階でオートロックも無く
進入するのは容易でした、しかし私は直前になって怖気ずいていました
諒子は私を選んでくれるのでしょうか?ひょっとして黒澤を愛してしまっているのではないか?
それに子供のことも気になります。義父の話からだとまだ3ヶ月
にはなっていないはずで私は降ろしているいるはずだと思っていても
心のどこかではまだ不安なのです。

部屋に諒子がいるのかどうか確認は出来ませんでした
私は道を挟んだところにある喫茶店でじっとマンションの方を見ながら
黒澤が帰ってくるのを待っていました。
1時間ほど外を見ているとずいぶんと露出の高い服を着た
女性がマンションのほうへと歩いてきました
何となしに女性を見ていましたが近づいてくるにつれ
その女性が誰か分かったのです。
間違いなく諒子でした。

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